漢字一文字の旅 紫式部市民文化特別賞受賞作品
11―3 【川】
【川】、勢いよく流れる水の形だとか。
そんな【川】、日本ではありとあらゆる所で流れている。そして一番長い川は信濃川だ。
ならば一番短い川は?
それは那智勝浦にある。なんとその長さ、たったの13.5メートル。
こんなのただの水たまりだよと言いたくなるが、正真正銘の二級河川なのだ。
その上に、この川は奇妙なことに、いつも川底からぶつぶつと水が湧き出しているそうな。
だから名前は――「ぶつぶつ川」だって。
ズルッと滑りそうになるが、一度自分の目で確かめてみたいものだ。
しかし、♪〜♪
知らず知らず 歩いてきた 細く長い この道……
いくつも 時代は過ぎて
あ〜あ 川の流れのように とめどなく…… ♪〜♪
こう歌えば、【川】は実に情緒が出てくる。そして人はいつも思うのだ。
長さ13.5メートルの「ぶつぶつ川」は別として、川の源を確かめてみたいと。
穏やかな川の流れから上流へと向かうと、まず鮎が泳ぐ清流となる。そしてさらに山へと入って行けば、そこには岩魚(いわな)が住む渓流がある。そして、そこには冷涼(れいりょう)で神秘な世界がある。
人はなかなかそこまでは足を踏み入れることができない。そのためなのだろう、余計にそんな自然の中へと身を置いてみたくなる。
とにかく【川】という字、下から上へと、つまり人を源流へと誘(いざな)ってくれるのだ。
作品名:漢字一文字の旅 紫式部市民文化特別賞受賞作品 作家名:鮎風 遊