漢字一文字の旅 紫式部市民文化特別賞受賞作品
10―3 【苺】
【苺】、「草」冠の下に「母」。
この字体は、「母」の株からどんどん子株を増やして行くからだとか。
そんな【苺】(いちご)、四〜六月が旬。
だが最近は一年中店先に並ぶ。
高価だが、五個食べれば、一日に必要なビタミンCが摂取できる。
ビタミンCは血管/骨/筋肉の形成に必要なコラーゲンの生成を促し、日焼けを防ぐ。
またキシリトールも含まれ、虫歯対策にもなる。その上に、その甘さは砂糖の四分の一と低カロリー。
まさに黄金のフルーツと言いたいところだが、学術分類でいけば野菜だとか。
そんな【苺】に白書がある。
正式名は、『The Strawberry Statement』(いちご白書)。
これは実話であり、時はキャンバスが学生運動で揺れていた1966年から1968年。場所はコロンビア大学。
改革の推進活動をする学生達が学部長事務所を占拠した。それに対して、学部長はラジオ放送でこう述べた。
「学生達の主張は大事だが、学生たちが【苺】が好きだと言う程度のものであり、重要ではない」
これが「苺ステートメント」、いわゆる白書なのだ。
筆者も、あの学生運動の頃から随分と歳を重ねてしまった。
【苺】が好きだと言う程度のものと評されてしまったが、それでもやっぱり好きで、今も囓(かじ)ってみたい。
なぜなら、そこには赤くて甘酸っぱい、
一粒一粒との――【苺】一会、イチゴイチエがあるからなのだ。
作品名:漢字一文字の旅 紫式部市民文化特別賞受賞作品 作家名:鮎風 遊