漢字一文字の旅 紫式部市民文化特別賞受賞作品
10―2 【蕎】
【蕎】、この字の読みは(キョウ)。これに「麦」が付いて『蕎麦』(そば)となる。
その元の和名は「曾波牟岐」(そばむぎ)だとか。
それを貝原益軒はわざわざと、「そばむぎ」と言うが、それは「麦」ではないと。
そらそうだ。
さらに貝原益軒は、蕎麦をみんなの食べ物の中で、麦の次に良い味だと順位付けた。
放っといてくれと言いたいが、これを現代版に直せば、麦ときたならパン。そのパンの次に蕎麦が美味いと言うことか?
この意見に反対だと叫ぶ人たちも多くいることだろう。
すなわちパンも美味しいし、蕎麦も美味い。
そんな蕎麦だが、タデ科の一年草。夏から秋に白い花を咲かせる。
その実は三角卵形、乾くと黒褐色になり、それからそば粉が作られる。
それを麺にする時に、「つなぎ」として何割か小麦粉を使う。だが、「つなぎ」なしの蕎麦粉だけで打ったのが、十割蕎麦だとか。
そんな蕎麦に「にしんそば」がある。
若い頃、どこが美味いのか理解できなかったが、不思議なものだ。最近それにいたく嵌まってしまっている。
こんな『蕎麦』とのお付き合い、振り返れば……、
かけそば → ざるそば → 天ざる → とろろそば、そして今は「にしんそば」と我が遍歴がある。
それはまるで人生の歩みと同じようなもの。
この歳になって、やっとやっと「にしんそば」の域に達したかと、己のことながら感じ入ってる。
そしてさらに歳を重ねれば、どうなるのかな?
終焉には、『うどんそばより かかあのそば』……となるのかなあ?
少し手遅れの感はあるが。
作品名:漢字一文字の旅 紫式部市民文化特別賞受賞作品 作家名:鮎風 遊