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漢字一文字の旅  紫式部市民文化特別賞受賞作品

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9―4 【遊】

 【遊】は、道を行く意味を持つ「しんにゅう」。
 その上に、神霊が宿っている旗を建てて出行する形の上の字を乗せている。
 そこから神霊が遊ぶこととなり、さらに発展し、人が興のおもむくままに行動して楽しむこととなった。

 白川静先生は「遊字論」の中で、【遊】について次のように説明されている。
  遊ぶものは神である。
  神のみが、遊ぶことができた。
  【遊】は絶対の自由と、ゆたかな創造の世界である。
  それは神の世界に他ならない。
  この神の世界にかかわるとき、人もともに遊ぶことができた。

 そんな【遊】、芭蕉が奥の細道の序文の元にもしたが、李白の「春夜桃李園に宴するの序」にある。
  夫(そ)れ天地は 萬物の逆旅(げきりょ)にして
  光陰は 百代の過客(くゎかく)なり
  而(しか)して 浮生は夢の若し
  歡を爲(な)すこと 幾何(いくばく)ぞ
  古人燭を秉(と)り 夜に【遊】ぶ
  ……

 この中にある言葉・『秉燭夜遊』(へいしょくやゆう)。これがまことに素晴らしい言葉なのだ。
 その意味は、人生は儚(はかな)く短いもの。だからくよくよせずに、夜更かしして、『夜遊び』しましょう、というものだ。 
 簡単に言えば、『夜遊び』の大奨励。

 そんな『秉燭夜遊』、座右の銘にしている輩がいるとか。
 えーい、それに賛同して、元々【遊】は神だけに許された行いだが、思いっ切り――【遊】んじゃいましょう!

 参考: 奥の細道の序文

  月日は百代の過客にして、行きかふ年もまた旅人なり。
  舟の上に生涯をうかべ馬の口とらへて老を迎ふる者は、
  日々旅にして旅を栖とす。
  古人も多く旅に死せるあり。