漢字一文字の旅 紫式部市民文化特別賞受賞作品
8―5 【想】
【想】、「心」の上にある「相」は「木」を「目」でしっかり見て、生命力を盛んにする儀礼だとか。それを他の人に及ぼし、心で「おもう」となるらしい。
そんな【想】、最近流行りの熟語が『想定外』。
震災後、いろいろな場面で、今回の津波は『想定外』だった。また、原発事故は『想定外』だったと連発されてきた。
まず「想定」は、「ある一定の状況を仮に想い画くこと」と広辞苑にある。
そして後方に「外」が付くと、日本語では「私の責任外ですよ」のニュアンスが含まれる。
この『想定外』と言う言葉、なかなか英語にはなり切れない言葉なのだ。
だが無理矢理に変換されているのが、下記のような文言。
(1) beyond ones expectation
(2) beyond the scope of ones assumption
(3) outside ones imagination
(1)の「expectation」は「期待」で、「期待を越えて」となり、ちょっと意味合いが違う。
(3)は「イメージ外」で、やっぱりちょっと異なる。
この中でもまだ合っているのが、(2)の「assumption」(仮定/前提)だ。
しかし……、しかしだ。
それでも「想定外」は英語にならない。
なぜなら、(1)も(2)も(3)も「ones」の所有格。
つまり早い話しが、「誰の」が必要なのだ。
今回、場面場面で『想定外』と言った日本人たち、この「誰の」が欠落している。
そして、電力会社や政治家の英語のインタビュー、どうしても「誰の」が言えなかったのだろう。『想定外』を苦し紛れに英語で、単に「souteigai」と言ってしまっている。
これは一体何なんだろうか?
これからもいろいろ問題で、海外向けにも説明が求められることだろう。
そして、日本の関係者たちは、決して「beyond the scope of 『my』 assumption」と言わずに、変な英語、単に「souteigai」だけを乱発するだろう。
不幸なことにそれを、国民が最近になって気付いてしまった。
そう、今となれば、充分予想できる――想定内のことなのだ。
作品名:漢字一文字の旅 紫式部市民文化特別賞受賞作品 作家名:鮎風 遊