小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

漢字一文字の旅  紫式部市民文化特別賞受賞作品

INDEX|55ページ/269ページ|

次のページ前のページ
 

8―3 【煕】

 【煕】、難しい字だ。
 上部の左は乳房の形、そして右は乳児の形。これにより授乳の姿で、養い育てる意味があるとか。
 音は(キ)、訓は(ひかる)/(ひろい)/(やわらぐ)などと読む。

 今から約500年前に、『妻木煕子』(つまきひろこ)と言う女性がいた。
 その熙子の夫は明智光秀。

 光秀との婚約後、熙子は疱瘡(ほうそう)にかかり痘痕(あばた)が残る。父はこの縁談が破断になることを心配し、妹に煕子の振りをさせて、光秀のもとへ送り出した。
 しかし、光秀はこれを見破り、煕子を妻として迎え入れる。
 夫婦は仲睦まじく、光秀の浪人時代、煕子は自分の黒髪を売って光秀の生活を助けた。

 余談になるが、売られた黒髪、当時何のために使われたのか不明。
 人形、それともカツラ?
 有力なのは、女性が髪を結うにあたって、足りない所を補う髢(かもじ)だとか?

 そんな煕子の内助の功があり、光秀は出世する。
 光秀は側室を迎えず、妻の熙子だけを一途に愛した。
 だが光秀が大病した時に、その看病疲れで熙子は亡くなってしまう。

 その後、光秀は、日本歴史上最大のミステリー、『本能寺の変』を起こす。
 そして、京都伏見の東部、小栗栖(おぐりす)の竹藪で、落ち武者狩りの百姓に竹槍で刺し殺される。
 その辞世の句は「心しらぬ 人は何とも 言はばいへ 身をも惜まじ 名をも惜まじ」
 明智光秀の生涯、それはただただ煕子と歩んだ人生だったのかも知れない。

 そんな【煕】、「熙笑」(きしょう): なごやかに笑うこと。
 また、「熙熙」(きき): なごやかに喜びあうさま、の熟語を作り、「衆人熙熙として楽しむ」とある。

 とにかく【煕】という字、明智光秀と同様、どことなく愛着を覚え、そして拘(こだわ)りを持ってしまう漢字なのだ。