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漢字一文字の旅  紫式部市民文化特別賞受賞作品

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38―3 【霧】

 【霧】、「雨」と「務」の組み合わせ。なぜ「務」なのだろう?
「務」は、矛(ほこ)をあげて、人にせまり、矛を使いこなす意味だとか。
 そして、字の中の「力」は耒(すき)の形で、農業につとめることを言うらしい。

 【霧】は以上のような理屈っぽい「務」の上に「雨」。だが、それとは関係なく、音が(ム)ということであり、単に「きり」となったようだ。
 なんだよ、これ! と文句を付けたくなる【霧】だが、そこには哀愁がある。

 特に1960年代、【霧】をテーマにした歌がよく唄われた。

  霧の摩周湖         布施明
  夜霧よ今夜もありがとう   石原裕次郎
  霧のかなたに        黛ジュン
  夜霧のむこうに       西田佐知子
  霧にむせぶ夜        黒木憲

 昭和世代の人たちには懐かしい歌ばかりだ。
 そんな【霧】がよく発生するのが京都の亀岡盆地と九州の湯布院盆地。これが世界ではとなると、ロンドンとサンフランシスコだろう。

 1962年 I Left My Heart In San Francisco
 これはトニー・ベネットの歌、その時の邦題は「霧のサンフランシスコ」
 しかし、今は原題に近い「思い出のサンフランシスコ」となっている。

 ♪ I left my heart in San Francisco
   High on a hill, it calls to me
   To be where little cable cars climb halfway to the stars
   『 The morning fog 』may chill the air, I don't care
   ……♪

 『 The morning fog 』 : 朝霧が冷たいけど、私はかまわないわ

 1960年代の日本人の皆さん、余程【霧】が好きだったのか、この一説から当時の日本人は邦題を「霧のサンフランシスコ」としたようだ。
 そんな【霧】ブーム、また近々に復活して、人たちに哀愁を呼び起こしてくれることだろう。
 こんな予感がするのだが……。

 なぜならば、今の時代が1960年代にどことなく似ているような気がするからだ。