漢字一文字の旅 紫式部市民文化特別賞受賞作品
30―4 【亮】
【亮】、「京」に「人」を組み合わせた形だとか。「京」はアーチ形の城門で、その前で儀礼が行われた。つまり【亮】は祈ることから生まれたそうな。
また【亮】に似た字に「涼」、「諒」がある。【亮】と同じく(まこと、あきらか、たすける)の意味がある。
こんな格式高い【亮】、明治時代にこの字を名前にした女性がいた。陸奥亮子(むつりょうこ)という。
今も写真が残るが、オードリー・ヘプバーンのような清楚な雰囲気がある。
亮子は没落士族の長女だった。
娘時代、東京新橋で一、二を争う美貌の名妓と名を馳せる。だが男嫌いで、身持ちも堅い、そんな評判だったとか。そんな亮子、17歳の時に陸奥宗光の後妻に入る。
その後、宗光は政府転覆運動に荷担した疑いで山形監獄に収監された。
その獄中から亮子、つまり妻への想いを伝えた。
離合は常理といえども
相思の情に何ぞ極まりあらん
南北ふたつながらに地を異にするも
夫婦この心は同じ
きっと宗光は夫婦の絆を確かめたかったのだろう。
その後出獄し、ヨーロッパへと留学した。そして帰国し、政府に仕える。
これを機にして、亮子は社交界へデビュー。その洗練された面立ちや振る舞いから、たちまち戸田極子とともに「鹿鳴館の華」と呼ばれるようになった。
その後、駐米公使となった宗光とともに渡米する。そして今度は――「ワシントン社交界の華」と称されるようになった。
亮子、たった44年の生涯だったが、きっと波瀾万丈だっただろう。
しかし、「新橋花柳界の美貌の名妓」→「鹿鳴館の華」→「ワシントン社交界の華」と華麗な花を咲かせたのだった。
作品名:漢字一文字の旅 紫式部市民文化特別賞受賞作品 作家名:鮎風 遊