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漢字一文字の旅  紫式部市民文化特別賞受賞作品

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21―2 【臭】

 【臭】、この漢字の上の「自」は正面から見た「鼻」の形だとか。そして、下の「大」は元々「犬」(いぬ)だったそうな。
 そこから「犬」の「鼻」で嗅ぎ、におう/くさいとなったらしい。
 うーん、そうだったのか、と唸るしかない。

 さてさて身の回りに臭いものは多くある。その中でも恐怖の五大異臭がある。
 それらは――ドリアン、ブルーチーズ、くさや、にんにく、鮒寿司だ。
 この中でもくさやは関東の風味、鮒寿司は近江の郷土珍味となる。

 「鮒ずしや彦根の城に雲かかる」
 彦根を訪ねた与謝蕪村がそう詠った。だが、きっと雲まで臭かったことだろう。

 鮒ずしは……いわゆる寿司の原点のなれ寿司。
 2、3年塩と米飯で漬け、発酵させる。アミノ酸のうま味が一杯の伝統食品だ。

 この材料となる鮒が琵琶湖のニゴロブナ。実はコイ目コイ科コイ亜科に分類され、どちらかというと鯉なのだ。
 したがって体型はゲンゴローブナのように膨らみを持たず、スリムな形。湖の深い所に棲むイケメン魚。

 そんなニゴロブナ、現在は捕獲量が激減し、高級魚だ。
 魚は希少、米は近江の高級米、そして途方もなく手間がかかる。したがって美味ではあるが、珍味。めったに口にすることはない。
 しかしだ、たまたま巡り会った時に気を付けなければならない。犬がそっぽ向くほど臭いのだ。

 「鮒ずしや彦根の城に雲かかる」
 与謝蕪村もこう詠いながら、きっと【臭】という漢字を思い浮かべたことだろう。