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漢字一文字の旅  紫式部市民文化特別賞受賞作品

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19―4 【酒】

 【酒】、右部は酒樽の形だとか。

 ドイツのことわざで、【酒】は「酔って狂乱、醒(さ)めて後悔」
 まったくその通りだ。

 しかし、「酒は茶の代りになるが、茶は酒の代りにならぬ」で、毎晩飲まずにはおられない。
 その挙げ句に、「酒は何も発明しない。ただ秘密をしゃべるだけである」となる。

 徒然草の二一五段、今から750年ほど前の鎌倉時代のこと。

 鎌倉武将の北条宣時(のぶとき)が、時のナンバーワンの北条時頼に、夜中急に呼び出されて屋敷に出向いた。いわゆる上司に呼び出されたのだ。
 そして、上司の時頼は銚子と素焼きの杯を持って出て来て、命令する。

 この酒を ひとりたうべんが さうざうしければ、
 肴(さかな)こそなけれ、人は静まりぬらん。
 さりぬべき物やあると、いづくまでも求め給ヘ

 要は、一人で酒を飲むのは寂しい。それで、お前を呼び出したが、肴がない。
 みんな寝静まってしまったものだから、どこにあるのかわからない。
 だから、お前が肴を探してこい、と。

 まあ、いつの世も上司は勝手なものだ。
「酒の肴を探すために、深夜に俺を呼び出したんか!」と、きっと宣時は叫びたかったろう。
 それでも宣時は文句一つも言わず、紙燭(しそく)に火をともし、くまなく探した。
 そして、台所の棚にあった小土器(こがはらけ))に見つけたのだ。

 そこに味噌の少しつきたるを見出でて、これぞ求め得て候と申ししかば、事足りなんとて、心よく数献(すうこん)……。
 つまり、小皿に付いていた味噌を見つけて、それを肴にして、数献の酒飲んで、上司の北条時頼様はご機嫌さんになったという話し。

 こんな酒飲みのいじましい上司、今の世にも──おるおる──蠅のように。
 そして我が高校時代、アル中の古文の先生、これを教えながら「なんと情緒があることか」と悦に入っていたのを思い出す。

 とにかく【酒】という漢字、脳を解放させ、
 最後に──『海よりもグラスの中で溺れる者が多い』という結論になるようだ。