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漢字一文字の旅  紫式部市民文化特別賞受賞作品

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19―5 【菖】

 【菖】、この一字で「菖蒲」(しょうぶ、あやめ)を意味する。
 「蒲」は沼の水辺に生える「がま」の意で、「菖蒲」は川や池の縁に群生し、香りを放つとか。
 そして、古くは「阿夜米久散」(あやめぐさ)と言ったらしい。

 こんな「菖蒲」、端午の節供に邪気を祓うため門の上に飾り、菖蒲湯に入る。
 江戸時代に「菖蒲」と武道を重んじる意味の「尚武」と掛けたのが始まりだとか。

 そんな【菖】、『いずれ菖蒲(あやめ)か杜若(かきつばた)』

 昔、源頼政がヌエ(物の怪)退治の褒美として、菖蒲前(あやめのまえ)の美女を十二人の中から選べと言われた。
 しかし、はたと困ってしまった。いずれもベッピンさんなのだ。
 そして詠んだ。
 『五月雨(さみだれ)に 沢辺(さわべ)の真薦(まこも) 水越えて いずれ菖蒲(あやめ)と 引きぞわづらふ』と。
 ここから『いずれ菖蒲か杜若』の言葉が生まれてきたそうな。

 そして五月の青もの、ちょっと並んでもらうと、確かにみんな美しい。
 (一) 「菖蒲湯の菖蒲」(しょうぶ)
 (二) 「あやめ」
 (三) 「花菖蒲」(はなしょうぶ)
 (四) 「杜若」(かきつばた)
 (五) 「アイリス」

 だが、源頼政が詠んだ通り、この五姉妹、見た目ではどれがどれだか見極めがつかないのだ。
 ならばということで、今回詳しく調査をさせてもらった。

 (一)の「菖蒲湯の菖蒲」はサトイモ科で、兄弟姉妹ではなく他人。
 葉は似ているが、「蒲」(がま)の黄色の花。
 あまり美しくない。要は実務派。

 (二)の「あやめ」は乾燥地で育ち、背丈は三〇〜六〇センチで、小輪。
 花びらの根元、要は口元には網目模様がある。

 (三)の「花菖蒲」(はなしょうぶ)は乾燥地と湿地の間で育ち、背丈は高く、八〇〜一〇〇センチ。
 花は大輪。そして花の口元には、黄色の目型模様がある。

 (四)の「杜若」(かきつばた)は湿地で育ち、背丈は五〇〜七〇センチ。
 そして中輪の花の口元には、白い目型模様がある。

 さらに、(五)の「アイリス」。
 これが多種多様で……、とにかく外人っぽい、とか?

 もうここまでくれば、やっぱり混乱の極みだ。
 え〜い、もうどうでもよいと思うが、一つ共通点がある。

 『いずれ菖蒲か杜若』、いずれも美しいのだ。

 そんな【菖】という漢字、五月を彩ってくれる。