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漢字一文字の旅  紫式部市民文化特別賞受賞作品

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19―2 【春】

 【春】の元の字は、『艸』と『屯』と『日』を合体させたもの。つまり【春】は、これらを縦にぎゅっと圧縮し、一文字にした漢字。
 そして、この中の「屯」、冬の間草の根が閉じ込められた形だとか。これに日があたり、今にも草の芽をふき出そうとしている。
 そんな意味から【春】となったそうな。

 枕草子の中で、清少納言は綴った。
 【春】はあけぼの。
 やうやうしろくなりゆく山ぎはすこしあかりて、むらさきだちたる雲のほそくたなびきたる。

 要は、【春】は日の出はまだだが、ほのぼのと明けてきた頃、あけぼのの時間帯が趣がある……ということだ。
 確かにと思うが、眠いのでめったに眺めることはない。
 そして、こんなメロディ、誰しも一度は聴いたことがあるだろう。

 ♪ ちゃんちゃんちゃちゃーああ ♪
 ♪ 「いて」、ちゃんちゃんちゃちゃーあん ♪

 うん? これではわからないか。
 で、答えは……微かに「いて」が入るヴァイオリン協奏曲『四季』の【春】だ。
 それは三つの楽章から構成され、アレグロ(陽気に)→ラルゴ(ゆるやかに)→アレグロ(陽気に)、と春らしく続く。
 そしてソネット(Sonnet)、それには十四行詩のが添えられてある。

 だが、不思議なことだが、この詩が多く和訳されているが、元の十四行になっていない。どこかにいくつかの行が飛んで行ってしまってるのだ。
 ならばということで、今回、原文と他の日本語訳を参考に、意訳してみた。

  一  春がやってきた、陽気に
  二  小鳥たちがチッチと歌ってる、春よ、ようこそと
  三  小川はさらさらと、そよかぜに
  四  せせらぎを優しく揺らしてる、そしてそのうちに
  五  空は真っ黒な雲に覆われつくし、雷鳴がどどどーんと轟く
  六  それは春の訪れの告知
  七  やがてやっと嵐は去り、小鳥たちがふたたび
  八  チッチと楽しく歌う
  九  花が乱れる牧場では
 一〇  葉のざわめきがララバイに
 一一  羊飼いが犬を枕に、まどろんでる
 一二  妖精たちも牧童も
 一三  キラキラと、春の光りを満身に
 一四  バグパイプの音色に、思わず踊り出す

 これがヴァイオリン協奏曲『四季』の【春】のイメージだ。
 うーん確かにと、数えてみたら……十四行だよ〜ん。

 そして、【春】、それはアレグロ(陽気に) → ラルゴ(ゆるやかに) → アレグロ(陽気に)の繰り返し。
 そのため、心地よいということになるのだ。