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漢字一文字の旅  紫式部市民文化特別賞受賞作品

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2―3 【丼】

 【丼】は不思議な字だ。
 井戸の中に水が落ち、跳ねる様子の「ゝ」が「井」の中にある。
 そして、その音が――「どぼん」。
 それが高じて、(どんぶり)と読むようになったと言う。
 おちょくるな! と叫びたくなるが、かなりホントの話しなのだ。

 そんな御高説以外に、江戸時代のこと。
 鉢に盛り切りだけの飯屋のことを、ケチで無愛想と言う意味で、慳貪屋(けんどんや)と呼んでいた。
 店員は無愛想で、実に慳貪な振る舞いばかり。だから、そこで出される飯が、慳貪振り(けんどんぶり)と呼ばれるようになった。
 そして最終的に――「どんぶり」に短縮されたとか。

 どちらも眉唾ものだが、それにしても【丼】は、頭にありとあらゆる字を付けて、「OX丼」とどんどんと増殖してきた。
 きっとこれからも、好き放題に増え続けて行くだろう。
 その途中にある今でさえ、「OX丼」のメニューは無限にある。
 天丼に鰻丼、そしてカツ丼。
 これくらいまではまだまだ情緒もあって、我々庶民も暮らし易かった。

 しかしだ。今はカレー丼までもが……。
 そんなの、ただのカレーライスじゃないか?
 その上に、驚きの【丼】がある。それは――目玉焼き丼。
 せめて出汁巻丼にして欲しい。
 日本の食文化は、もう地に落ちてしまったのか。
 近々に、スウィーツ・宇治抹茶丼とか、鮭茶漬け丼とかが登場するかも。

 そして究極のどんぶり、それはどんぶり三段重ねの『丼々丼』(どんどんどん)が出現。そんな予感までしてくる。
 そして、それが現実になった時、大和民族が滅びる時なのかも知れない。

                   丼々
               追記: ↑は、草々の代わり丼