漢字一文字の旅 紫式部市民文化特別賞受賞作品
2―2 【穴】
【穴】、中国の黄土地帯では、人は地下の家に住んだ。その土の部屋への入口の形だとか。
不思議の国のアリス。
それは1865年に、イギリスで出版された児童文学。作家は数学者だと言う。
アリスは白うさぎを追い掛け、【穴】に落ちる。そして、身体を大きくしたり小さくしたりして、言葉を話す動物たちの世界を冒険する。不思議な話しだ。
ワンダーランドへと通じるこんな【穴】。なぜか歳を重ねても忘れられない。
だが、世間には好まない【穴】もある。
その一つが「空っ穴」(からっけつ)。財布の中が空っぽなのだから、堪らない。
そして、【穴】の中には、だいたい何かがいたり、何かあったりするものだ。
「虎穴に入らずんば虎児を得ず」
危険はあるが、勇気を持って飛び込めと……、そう急かされてみても、やっぱりビビッてしまう。
それに比べ、一生に一度は味わってみたい【穴】がある。
それは『大穴』だ。
しかし、普段の生活、巣穴にじっと引き籠もるような穴子状態では、そんな【穴】には絶体に巡り逢えない。
ならば勇気を持って……。
否、とにかく【穴】に近付かない方が良いのかも知れない。
【穴】はいつでも――落とし【穴】に変わってしまうから。
作品名:漢字一文字の旅 紫式部市民文化特別賞受賞作品 作家名:鮎風 遊