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漢字一文字の旅  紫式部市民文化特別賞受賞作品

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2―4 【波】

 【波】、それは空間や物体に加えられた状態の変化が、次々に周囲にある速さをもって伝わっていく現象を言うとか。
 砂浜に立つと水平線の彼方より途切れることなく、【波】が押し寄せてくる。
 さざ波のような小さな波もあるが、津波のような大きな波もある。

 しかし、世の中には目には見えない【波】もある。音波、電磁波、光波の類で、人の生活に活用されている。
 そんな様々ある波の中で、一番やっかいでなんともならない【波】がある。
 それは――『年波』。
 音も立てずにひたひたと、しかし確実に。 

 人は感じずに、この波を被り続けて行き、不幸にも……、ある日ふと気付くのだ。
 新聞の活字がはっきりと読めな〜い!
 オシッコのキレが悪くなったー!
 そして、吐く言葉は一言……「なんでだろ?」

 日常会話、それはいつの間にか、アレ/コレ/ソレの三大指示代名詞だけで、事を済ませてしまう。ほとんど何が言いたいのかわからない。
 だが心配ご無用、ツレアイだけはわかってくれるから、と自虐的に、互いに慰め合う。
 そして人たちは、この状態を自覚した時に、必ず呟くのだ。
「やっぱり、寄る『年波』には勝てないなあ」と。

 まことに、こんな『年波』を上手く乗りこなして行けるサーフボード、どこかに売ってないものだろうか?