漢字一文字の旅 紫式部市民文化特別賞受賞作品
18―5 【杏】
【杏】、木の枝に実をつけている象形文字だとか。訓読みで(あんず)、音読みで(キョウ)。
さてさて、ここで問題が。
春の四姉妹、すなわちバラ科の梅・桃・桜・杏。これらを見分けることができるだろうか?
梅は──
幹が黒くてゴツゴツ、葉は卵形で、花びらは円く、花は枝の根元で多く咲き、咲き終わってから葉が出てくる。
桜は──
幹に横縞があり、葉はギザギザ、花びらはM字型で、花は枝の先っぽに多く咲き、葉が出てくる時期はいろいろ。
確かに梅と桜は一目で判別できる。ならば、それらに桃と杏が加われば……?
桃は──
幹に少々横縞ありで、葉は長い楕円形、花びらは先尖りで、花は木にまんべんなく咲き、葉は花と同時に出てくる。
杏は──
幹は赤みある褐色、葉は広めの楕円形、花びらは円く、花は木にまんべんなく咲き、咲き終わってから葉が出てくる。
そんなややこしい春の四姉妹。
その中でも【杏】、西洋ではアプリコットと呼ばれ、淡紅色もしくは白色の美しい花が咲き、その果実は薬効がある。
杏仁(あんにん)で咳止めに効く。
そして、【杏】には友達がいる。
それは銀の【杏】、「銀杏」(ぎんなん)だ。秋に採り、冬に食べる実だ。
ビタミンB、C、βーカロテンなどがあり、栄養価が高い。このβーカロテンが活性酸素の働きを抑えてくれるらしい。そのため老化防止、そして肌荒れやニキビにも効果あるようだ。
だが、メチルビリドキシンという毒素があり、痙攣を起こしたりもする。少し危険だ。
大人は十粒までで、子供は三粒までらしい。
春の四姉妹、梅・桃・桜・杏でこんがらがって、焼酎ロックで脳洗浄。その充てにと、炒(い)った銀杏……確実に十粒は越える。
その挙げ句、銀杏で中毒死。
遠因は梅・桃・桜・杏。
こんなのを――春の悪夢というのかな。
作品名:漢字一文字の旅 紫式部市民文化特別賞受賞作品 作家名:鮎風 遊