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漢字一文字の旅  紫式部市民文化特別賞受賞作品

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15―5 【様】

 【様】、右は「羊」と「永」の合体。それは水の流れ、その水脈が長く連なるさまのことだとか。
 ならば、なぜ「さんずい」でなく「木」偏なのか?
 【様】はブナ科の落葉樹「栩」(くぬぎ)の意味があったからとか……。だが、正直よくわからない。

 そんな【様】、意味は「有り様」。要は「寝様」に「死に様」など、いろいろな【様】がある。
 そんな中で最も気に掛かるのが「生き様」。それは人間の「生き様」だけではない。犬や猫の動物にも「生き様」はある。また、草花や樹木にも「生き様」はある。

 そして身の回りをよく観察すれば、大変お世話になってるパソコンたちにも「生き様」はあるのだ。
 だが、残念なことだ。その生き様は悲劇的で、嘆きの独白が聞こえてくる。

(一) マウス
 いっつもガリガリと動かされ、好き勝手にクリックされて暮らしてます。
 時々、ポロッと床に落とされたり……でして。
 この間なんて、餃子、キムチ、納豆食べた手で、ぬるっと握られました。
 臭い、油っこい、ネバネバ、もうカンニンして下さいよ。

(二) マウスパット
 いっつもマウスのヤツにゴシゴシこすられて、辛い日々です。
 破れたらポイッ! ゴミ箱へ直行ですよ。
 この間なんて、ニャンコが私の上にドカッと座りよりまして……。
 地球滅亡の日をただひたすらに待つ、そんな呪いの毎日です。

(三) キーボード
 いっつもバンバン叩かれて、もう手垢(てあか)で汚いってありゃしません。
 この間、赤ん坊がしっかりよだれ垂らしよりまして……、もうやってられません。
 新品の頃のプライドも消え失せて、もう勝手にしろと居直る日々です。

(四) ディスプレー
 いっつも御主人さまに、ヒステリックに睨まれて、ハラハラの毎日です。
 この間も、いきなり凍結したんですよね。
 御主人さまから「お前アホか!」と、罵声と唾が飛んできました。
 OFF時はスッピン、もうほこりだらけで、見られたものじゃないですよ。
 「ちょっとくらい磨いて下さいよ」と御主人様にお願いしても、鼻かんだ後のティッシュで、ゴリッとこすられましてね。
 光り輝いていた栄光の日々を懐かしむ毎日です。

(五) USBメモリ
 あれもこれもと詰め込まれて、後は忘れ去られてしまい、出番なし。
 知識を一番持ってると自負してるのですが、この間なんか、ポトリとトイレに落とされたんですよね。
 役に立っていた日々、一体あれは何だったんでしょうね。

 いやはや「生き様」の【様】という漢字、ことほど左様に――【様様】なのだ。