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漢字一文字の旅  紫式部市民文化特別賞受賞作品

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15―3 【仙】

 【仙】、「人」偏と「山」とが組み合わさっている。
 そして、その意味は山中で霞(かすみ)だけを食べて、不老不死の術を修行する人のこと。いわゆる仙人だ。

 そんな【仙】、「水」が付いて『水仙』となる。それは雪の中で芳香を放ち、凜と咲く。だから、雪中花(せっちゅうか)とも呼ばれている。

 松尾芭蕉はその花を、『その匂ひ 桃より白し 水仙花』と軽く詠った。さすがだね。
 また、与謝野鉄幹から水仙の君と呼ばれていた与謝野晶子、多分好きだったのだろう。
『水仙は 白妙ごろも よそほえど 恋人待たず 香のみを焚く』など多く詠った。

 こんな『水仙』、学名は「Narcissus」(ナルシサス)。
 ギリシア神話で、美少年のナルシサスは水面に映った自分に恋をした。
 だが、恋は実らず……、アッタリ前田のクラッカーと、やっぱりやつれて死んでしまう。
 そして、少年は水辺に咲く花に変わった。それが『水仙』だ。
 ここから『ナルシスト』という言葉が生まれたようだ。

 そして中国語では、『ナルシスト』のことを『自恋』と言い、この神話は「自恋的水仙花物語」と紹介されている。

 また英語では、『水仙』は「daffodil」。かって、「七つの水仙: Seven Daffodils」と言う歌があった。
 悪友の高見沢一郎の訳でご辛抱願うなら……。

  僕には 大きな家も 土地もない
  手には しわくちゃの紙幣 一枚さえもない
  けれど 千の丘に明ける朝を
  君に 見せてあげたい
  そして 君へのキスと
  七つの『水仙』を あげよう

 歌はこのような詩であるが、うーん、なんとなく恋に恋する「自恋的水仙花」、ナルシストのような雰囲気がする。

 いずれにしても、【仙】という漢字、元々は「霞」を食って生きてる仙人のこと。
 だからなのか、【仙】に纏わる話題、なんとなく加齢臭が……。いや「霞」ぽくって、腹応えしない話しなのかも知れないなあ。