連載小説「六連星(むつらぼし)」 第11話~第15話
連載小説「六連星(むつらぼし)」第14話
「ゼネコンと震災復興」
「ああ・・・・疲れきって、ようやくのことで故郷へご帰還だ。
トシ。旨い蕎麦を食わせてくれ。連日の被災地での人集めで俺はもう
クタクタだ。
福島からのやっっとの思いでの生還だぞ。
こいつらにも、なにか旨いものをたらふく食わせてやってくれ。
あ、英治の分はいらないぞ。
あいつは2日ばかり向こうに残ってボランティアをやっている。
あいつのボランティアも毎度のことだ。
こいつらの二人分だけをたっぷりと用意をしてくれ。
お~い、響。
あ・・・・そうだ。もうここには居ねえのか。
あいつは夜の勤めに出したんだっけ・・・・
じゃあ仕方ねえなぁ。トシのしょぼい顔を見て、それで我慢をするか」
「おいおい岡本。お前は俺の蕎麦が目当てかなのか、それとも響か。
どっちなんだ、いったい」
「馬鹿野郎。若い響に決まっているだろう。
蕎麦は逃げださねぇ。、自宅に居る娘は、俺が帰っても口をきいてくれねぇ。
遊んでくれる年頃の女と言えば、ここじゃ響だけだ。
そうか仕事か、仕方ねえな。じゃあ寂しく一人で・・・・呑むか」
「ビールとコップは、そこから勝手に出してくれ。
悪いが手を離せない。
だいぶ疲れているような顔だな。被災地はそんなに忙しいのか」
コップを片手に、岡本が厨房の入口までやってきた。
入荷したばかりのそば粉を相手に、俊彦が水回し作業の真っ最中だ。
(『水回し』とはそば粉をこねつける第一段階のことで、
そば粉に充分かつ均一に水を含ませための、大事な作業のことだ)
「北海道の幌加内産の高級蕎麦粉だ。
ネットで取り寄せたばかりだから、お前さんが初の味見人になる。
香りがたってきたので、仕上がりが楽しみだ」
「北海道でも蕎麦がとれるのか・・・・目からウロコだな」
「寒いところで、土が痩せていたほうが、収量は少ないが、
味と深みのある蕎麦が採れる」
作品名:連載小説「六連星(むつらぼし)」 第11話~第15話 作家名:落合順平