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連載小説「六連星(むつらぼし)」 第11話~第15話

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連載小説「六連星(むつらぼし)」第13話
「日帰り温泉・日光やしおの湯」

 「ほら、見つけた。やっぱリ有ったわ。私の愛車が!』

 シートベルトを外したまま、俊彦の肩にもたれていた響が
日帰り温泉「日光やしおの湯」の駐車場で、一番目立つところに停められている
自分の愛車を見つけ出した。


 「真っ赤なミニクーパーで、ナンバーは、3298(ミニクパ)。
 日本中を探したって、これと同じ車なんか一台もありません。
 お母さんが乗る時にはすんなり言うことをきいて動く癖に、私が乗ると、
 ジャジャ馬に変身してしまう面倒くさい車なの。
 欲しくて、欲しくて、短大へ行く時、無理やり買ってもらったんだけど、
 燃費が悪いうえに、シートが固くて乗り心地が悪いのよ。
 おまけにエンジンブレーキが利きすぎて、アクセルを離した瞬間、
 ガックンガックンと車体が揺れるんだもの・・・・
 乗りにくいったらありゃしない。扱いにくい車だったわ」


 「過去形の表現だ。それって・・・・」


 「私の手には負えませんでしたが、今は母が愛用をしています。
 へぇ~、こんな谷あいに、市営の温泉施設が有るなんて、
 はじめて知りました。
 広々としていて見るから清潔そうだし、モダンな感じで
 私好みの建物の外観です。
 あ、・・・・ほらほら。やっぱり居たわ!
 ガラス越しでお母さんが、手を振っています。
 でも、あの様子は見るからに怪しいなぁ。
 あれで私に手を振っているつもりなのかしら、お母さんは。
 わざわざ電話をしてきたくらいだもの、本命はやっぱりトシさんか。
 そうなると結局私は、ただのおじゃま虫だな・・・・(まいったなぁ)」


 響が悔しそうに、ふんと唇を尖らして見せる。
公共温泉施設「やしおの湯」は、日光宇都宮道路・清滝インターチェンジの
近くの山間に、1990年代の後半に建てられたものだ。
当時の日帰り温泉ブームにのって、建設をされた温泉だ。
国際観光都市の日光らしく、洗練された外観をもち、内部も広々と
設計をされている。
天然温泉の泉質の良さが、最大の売り物だ。
市民のみならず、観光客たちにも好評で、国際観光都市・日光の市街地にある
隠れた新名所として、定着しつつある。


 無色透明でとろりとしたお湯は、アルカリ性の単純温泉だ。
肌がつるつるになると女性たちには評判が良い。
芸者の清子も、この日帰り温泉の大ファンのひとりだ。
玄関を入ると、大きなガラス窓で囲まれた広い休憩スペースが目の前に広がる。
一番奥のソファで、笑顔の清子が、沢山の荷物の間に挟まれて、
ちょこんと正座をしている。


 「ご機嫌よう、トシさん。
 娘の響がたいへん、お世話になっています。
 ひとりで育てたせいか、なにかと躾(しつけ)が行き届いておりません。
 自由奔放な性格の持ち主ですので、なにかにつけて、私も手を焼いています。
 ご迷惑などをかけていませんか?。
 突然家出をしたあげく、これまた突然に桐生に現れて、なりゆきで
 トシさんの処へ転がりこんでしまったようです。
 ごめんなさいね。親子で面倒ばかりをかけてしまって・・・・うふふふ」

 
 「それが、案外とそうでもないようです、お母さん。
 殺風景な部屋に、華があるなどと言って、トシさんが喜んでくれています。
 私が登場することを、待っていたような感さえ有ります!」


 「これっ、響。
 勝手に押しかけてお世話になっているくせに、
 失礼を言うにも限度が有ります。
 ご免なさいねトシさん。本当に躾が行き届いていない子で。
 一人っ子のため、きついことも言わず、甘やかして私が育ててしまいました。
 親の責任です。これほどまでに、たしなみが足りないのは」


 「実は俺も、驚きっぱなしの状態だ。
 君にまさか、こんな大きな娘さんが居たなんて、夢にも思っていなかった。
 この子とは、ひょんな出会いから知り合いになった。
 そう言われてみると、どことなく昔の君の面影もあったようだな。
 もっとも君は・・・・こんなジャジャ馬では無かったような気もするが。
 いいんじゃないか、跳ねっ返りも。現代っ子らしくて」



 「ここは、お肌がつるつるになって、美人になる天然温泉だそうです。
 しかも源泉100%の掛け流しとくれば、もう言うことはありません。
 私は、ひと足お先にお風呂へいってまいります。
 どうぞお二人は、心おきなくお話を続けてください。
 邪魔者は、さっさとお風呂に消えますので。」


 清子が用意をしてきた沢山の荷物の中から、入浴セットを受け取ると、
響が、鼻歌まじりで立ち去っていく。
苦笑しながら響の後ろ姿を見送っている清子の横顔を、
俊彦の強い目で見つめる。


 「あら、どうかなさいましたか。そんなに怖い目をして・・・・。
 なにかお気に触ったことでも、ありましたかしら?」

 「ひとつだけ、君に確認しておきたい。
 あの子は自分で21歳と自己紹介をしたが、それは、本当の話なのかい?」

 「何が知りたいのでしょうか。
 なんで響の歳に、あなたはそれほどまでにこだわるの?」