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連載小説「六連星（むつらぼし）」第15話　
「復興バブルの裏側」

　
　「復興バブルの例。そうだな、たとえば・・・
　東日本大震災で大きな被害を受けて、多数の死傷者を出した
　宮城県の仙台市だ。
　その後一転して、今は復興バブルの真っ最中にある。
　悲嘆に暮れた3月11日から、一年が経ったら、東北地方でも随一の
　歓楽街として、復活をした
　中心街の国分町などは、すさまじいものだ。。
　何処を覗いても朝まで、てんやわんやで大にぎわいだ。
　市内のホテルは、どこでも空室を探すのが難しいほど混み合っている。
　復興バブルの『宴』を支えている主役は、ゼネコンとマリコンだ。
　（マリコン・海洋土木や港湾建築工事を請け負う建設業者）
　あとは、プラント設備業者と土木関連の連中だ。
　地震や津波で壊れた工場の修復などの、民間企業からの発注工事はもちろん、
　ここに来てがれきの処理や道路、港湾の復旧工事など国や地方自治体からの、
　インフラ工事の発注が、本格的に動き始めた」


　岡本がビールで満タンのコップを、大きく振りまわしている。
俊彦を相手に、ひたすら熱弁をまくしたてている。
頭には鉢巻を巻き、くわえ煙草のまま適当に頷いている俊彦も、
すでに呑みすぎ状態に陥っている。
目はトロンとしたままだ。岡本の話にもあまり興味を示していない。
岡本が連れてきた若い二人も、すでに呑み過ぎてテーブルにダウンをしている。
どうにもならない飲み過ぎ状態の中で、岡本だけが、ひとりで
気勢をあげている。


　「ただいま」と元気に六連星の引き戸を響が開ける。
明けた瞬間、呑んべいどものあきれはてた光景を目の前に見て、呆気にとられ
思わずその場に立ち尽くしまう。
「トシさんまで酔っぱらって・・・一体全体どうなってんのさ・・」
と、憮然とした眼差しを酔っ払いどもに向ける。


　「おう、響か。良いところに帰ってきた。
　話はこれから、佳境にさしかかるところだ。
　お前にも聞かせてやるから、椅子と、コップとビールを持ってこっちへ座れ」

　「あら・・・・何の、お話？」


　「被災地の復興バブルとゼネコンの話だ。面白いぞ」

　
　「あらぁまあ、真夜中だと言うのに、きわめて微妙な話題ですねぇ。
　色気のない堅いお話ですこと。
　でも他ならぬ岡本のおっちゃんのお願いでは、無下に
　辞退するわけにいきません。
　はいはい。承知いたしました。謹んで拝聴したいと思います。
　あ、でもその前にトシさん。
　お腹が空いてしまいました。何か食べさせて下さいな」


　「あいよ」と、赤い目をした俊彦が椅子からふらりと立ちあがる。
響のコップへ岡本が、勢いよくビールを注ぎこむ。
そのまま、一気に呑めと両手であおる。
苦笑いを見せながら一口ふくんだ響が、岡本からビール瓶を受け取る。


　「なぁ響。
　女の子というものは、年頃になると男親のことを
　まるでバイ菌でも見ているような、なんともいえない目つきで
　見るようになる。
　お前さんもやっぱり、男親はそんな目つきで見つめるのか？
　もしもの話だが、探しているオヤジさんが見つかったら、その時はお前も
　やっぱり、俺の娘と同じような目で見つめるのか？」

　
　「お嬢さんは、岡本さんのことを嫌ってなんかいないと思います。
　異性に眼が向いてくると父親でも、一人の男として見るようになります。
　照れくさくて、恥ずかしさを覚えるのだと思います、たぶん・・・・
　でもまだ私には、そんな実感はありません」


　「まだ見当がつかんのか。お前の父親らしい男は」

　「はい、残念ながら・・・」


　響の目が、厨房で動いている俊彦の背中をチラリと見つめる
コホンと咳払いをした岡本があわてて、話題を変えはじめた。