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連載小説「六連星(むつらぼし)」 第6話~第10話

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連載小説「六連星(むつらぼし)」第8話
「負の連鎖」

 「茂伯父さんは上京して、臨時工としてトラックの日野自動車に勤め始めた。
 俺が、4つか5つくらいの頃で、今から20年以上も前の話だ。
 そこで自動車部品の仕事を覚えた伯父さんは、その後、
 小さな町工場へ就職をした。
 当時は、物つくりに特化する町工場がたくさんあった。
 下町とは言え、そんな工場が密集していてたいへん活気が有った。
 伯父さんの、アパート暮らしが始まった。
 それなりの収入も有り、ひとりで食うぐらいは充分だった。
 その半年後。秋田の実家で、次の騒動が始まった。
 俺のお袋の綾子が、再再婚を強要されたからだ。
 子連れではたいへんだろうということで、俺たち兄妹は実家に置かれたまま、
 お袋は一人で、新しい男の処へ嫁いでいった・・・・
 田舎では、良くある話だ。

 しかし不幸なことに相手の男は、あまり仕事が好きじゃなかった。
 何処へ勤めても長続きをしなかった。だが、その割に実によく遊んだ。
 昼間はパチンコ三昧で、夜になると呑んだくれるという日々が続いていた。
 家でも建てれば真面目に稼ぐだろうと、祖母と祖父が相談した。
 2000万くらいの建売住宅を、祖父が保証人になって無理矢理に購入させた。
 わずかな頭金だけをいれ残りはローンを組めば、建売住宅とはいえ、
 相当額の借金を抱えこむことになる。
 借金に追われることになった男は、1年くらいは真面目に働いた。
 その間に、妹と弟も生まれたために、俺たちは実質、4人の兄弟になった。
 まだ相手の男もまめに実家に遊びきていたころのことだ。
 離れて住んでいるとは言え、とりあえず4人兄弟が
 一同に集まる日々もあった。
 すべてがなんとなくだが、上手くいくように思えた時期だ・・・・
 実の子供とあまり差別しないで、男は4人全部を、同じように遊んでくれた。
 だが平穏に見えた生活も、実は、ここまでだった」


 金髪の英治が、ごくりと喉を鳴らしてビールを飲み干す。
頬杖をついたまま響が、置かれたコップになみなみとビールを注ぎ入れる。
溢れかけてきたビールへ、慌てて金髪の英治が口を運ぶ。


 「あまり、呑ませないでくれ・・・・
 実は俺は、酒に弱いんだ。
 付き合いで呑むが、せいぜいビール3杯で限界になる。
 それ以上呑むと酔っ払う癖がある。俺の人格まで、いっぺんに変っちまう」

 「どうな風に、人格が変わるのさ・・・・」


 「スケベになる」



 「ばか~、。普通じゃん、そんなの当たり前の話じゃんか。
 そんなつまんない冗談はいいから、その先はいったいどうなったののさ」


 根が怠け者の男は、ふたたび仕事を辞め、遊び三昧の暮らしを始める。
こうした事態をより深刻にしたのは、実は妻の綾子だ。
遊び続ける亭主をたしなめるどころか、逆に二人揃って、遊び回るようになる。
当然のこととして住宅ローンは滞る。
家計も回らなくなり、急場をしのいで消費者金融などから借金を
重ねるようになる。
次々と、遊ぶための借金が増えていく。
祖父と祖母が気がついた時には、すでに積もり積もった借金は雪だるま式に
膨れすでに手に負えない金額になっていた。


 当然のこととして、事態を改善するために親戚中が集まって来る。
対策を協議しようとしていた矢先、男と綾子は自宅に4人の子供を置いたまま、
いずこともなく姿を消してしまう。
すぐに戻ってくるだろうと、祖父は事態を静観したが、ひと月がたち、
ふた月が経過をしても、2人が戻って来る気配は一向にない・・・・


 「何なの、それって。
 じゃあなたたち4人の兄弟は、親に捨てられたと言うこと?
 その当時なら、下の子は、1歳か2歳になったばかりじゃでしょう?。
 親の取るべき行動じゃないわよ、そんなのは」


 「それでも俺たちにしてみれば、親だ。一応は。
 2人して帰ってこないということになると、問題は俺たちの処遇だ。
 親戚でも4人は面倒を見切れないから、施設へ預けようと言う結論が出た。
 ところが、祖父たちに有る程度の収入があるために、それも簡単には
 すすまない。
 結局、結論が出ないまま、中途半端に話が終わった。
 仕方がないので俺たちは、とりあえず、祖父の実家に4人まとめて
 居候をすることになった。
 だが、購入したばかりの建て売り住宅の借金は、そのまま全額が残った。
 4人の子供を抱え込んだ瞬間から、今度は実家の家計のほうが、
 あっというまに火の車になっちまった」


 「誰が考えても、当然そうことなるわね。
 で、どうなったのさ、その後は。
 ある意味、泥沼状態だけが続いている絶対絶命のなピンチだわ。
 なにか、効果的な救済策があったわけ?」


 「実家のピンチ状態を救ってくれたのは、東京で一人暮らしをしている
 茂伯父さんだ。
 だがある意味でそれは、お互いの解決策を先延ばしにしたため、
 逆に、誰も助からない状態が続くという、酷い状態を生み出した。
 いわゆる負の連鎖っていうやつを、生みだしたのさ」


 「・・・・負の連鎖?」


 響が目を丸くしながら、耳を傾けている。
空になったコップにビールを注ぎながら、これで何杯目かの確認をしている。
(たぶん、これが英治の言う問題の3杯目だ・・・・
本人が酔うとやばいと言っているから、一応、心の用心だけはしておかないと・・・・)


 話を聞いた叔父の茂が、今後の対応のために、秋田へやって来る。
親戚一同の埒の明かない会議の末に、しびれを切らした叔父の茂が、
ついに前代未聞の大英断を下してしまう。


 「よし。みんなの言い分はよく分かった。
 子供4人を置いて、無責任に逃げ出した綾子も相手の男も、もう一切探すな。
 今後の責任は俺がすべてとるから、子供4人はそのまま実家に置いておけ。
 かかる費用は、俺が東京から全額の仕送りをする。
 そういうことで今回は片付けるから、この話はもうこれで終わりにしょう。
 いいか。逃げ出した綾子と相手の男は、2度とこの家の中に
 入れるんじゃないぞ。
 そのかわり金は、責任をもって毎月きちんと俺が用立てる・・・・」


 (突拍子もないことを言い出す伯父さんだな・・・・
そんなことをすれば、今度は自分が助からなくなる。
正気の判断とは思えません。)
響も、叔父さんが出したこの結論には呆れて、思わず口をあんぐりと開ける。
「お前。とんでもない事を言いだす、無謀すぎる伯父さんだと、
今思っただろう?」
金髪の英治が顔を寄せ、響の呆れかえっている瞳を真正面から覗き込みむ。


 「世間では信じられない異常ともいえる事態が、
 実際に俺の実家ではじまった。
 東京に戻った伯父さんはその月から、きちんと育児費用を
 実家に振り込んできた。
 最初のうちは、実家の祖父も運転手として働いていた。
 伯父さんも、月の給料のうちの3分の1ほどを実家に送れば、
 それで間にあっていた。
 だが住宅のローンを支払い、段々と成長する4人の子供たちのために、
 年とともに費用もやたらと膨れあがっていく。
 仕送りの金額も、年とともに増えていくことになる。