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連載小説「六連星(むつらぼし)」 第6話~第10話

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連載小説「六連星(むつらぼし)」第7話
「英治の生い立ち(2)」 

 
 金髪の英治の出身地は、秋田県の由利本荘(ゆりほんじょう)市。

 日本海に面して町並が開け、内陸部にも広大に広がる地方都市だ。
河口から3kmほど遡った子吉川の南側を中心に、市街地が大きく広がっている。
子吉川の河口には、夏場には大変に賑わう「本荘マリーナ海水浴場」がある。


 海岸線に沿いながら、酒田街道(国道7号)が北と南へ伸びていく。
市域の中央部は、丘陵地帯(笹森丘陵)だ。
本荘街道(国道107号)と矢島街道(国道108号)の2本が、
内陸部へ通じている。
面積は、県内の最大級(秋田県の面積の十分の一)を誇る。
神奈川県の面積の約半分に相当する。
天気予報は、『由利本荘沿岸』『由利本荘内陸』と2つに分けて放送される。


 金髪の英二の話は、茂るという叔父の出来事からはじまった。
摩訶不思議なめぐりあわせを説明するには、叔父の事から
語りはじめる必要がある。
真面目な顔をした金髪の英治が、下から響を見上げる。


 英治の実家は内陸部で、『高橋』の姓を名乗っている。
実家は小さな農家だが、田畑は祖母が一人で細々とこなしている。
祖父は、運転手として働きに出ている。
長距離便のトラックを運転するため、家に居るのは週にせいぜい2日ほどだ。
嫁とは若い時期に死に別れ、子供は男と女の2人が残された。


 2人のうちの長男が、叔父にあたる茂だ。
地元の高校を卒業した後、電子部品を扱う零細企業に就職をする。
妹の綾子は仕事が嫌いなうえに、きわめての男好きだ。
19歳にして、2人の子供を産む。
シングルマザーとして出産をしたために、どちらも男親が異なる。
このうち長男のほうが、金髪の英治だ。


 行き先を心配した両親が、遠縁を頼って綾子の婿を探す。
最初に出来た2人の子供は実家に残し、綾子を単身で男のもとに嫁がせる。
20歳を前に綾子にあたらしい所帯を持たせたものの、相変らず男癖は
悪いままだ。


 やがて2人の間に2人の子供が生まれるが、夫婦仲はぎくしゃくとしている。
下の子が出来た直後に、離婚の話がはじまった。
仲裁の話も旨く進まず、結局、2年後に2人の子供を連れて綾子が
実家に戻ってきた。
実家でそれぞれ親の異なる4人の兄妹が暮らし始めるころになる。
ちょうどこのころに長男の茂が、務めたいた会社で前代未聞といえる
不祥事件を引き起こしてしまう。


 茂が勤めている電子部品の工場は、手仕事による流れ作業の
電話機部品の組み付けが中心だ。
200人の従業員のうち、90%以上が若い女性たちだ。
女性が多い職場の特徴として会社からは見えない場所で、女同士のねたみや
悪口や、暴行事件などが横行する。

労務管理の教育も受けないうちに茂は、21歳にして管理職に登用をされる。
ただ単に、男性従業員が少ないという背景が有った。
課長補佐の肩書をもらい、仕事のひとつとして少女たちのもめ事の
仲裁などにあたるようになった。

 背景にあったのは、単なる野球部の先輩後輩という『こね』の関係がある。
茂が通ったのは、地元でも野球で名の通った有名私立高校のひとつだ。
野球部の特待生として監督から指名を受ける。
入学試験も受けず、授業料も免除と言う待遇で入学を果たす。
2年生の春までは順調にいったが、3年の春に肩の故障が発覚をする。

 夏の甲子園予選を前にして、小学校時代から無理な連投を重ねてきた茂が、
当主の生命線である肩を壊してしまう。
レギュラーとして残ったものの、3番手の投手として出番のない
ベンチ生活が続く。
結局一度も出番がないまま、茂の高校生活と野球人生がそのまま終わる。


 電子部品工場への就職も、そのときに培かわれた野球部OBの
コネによるものだ。
短期間のうちに昇進を決めた要因も、職場内にほとんど男子がいないという
ここの職場の、特の事情によるものだ。


 電子部品工場の作業は、単純な組み立ての工程ばかりが続く。
プリント済みの基盤へ電子部品を組み込み、そこへ数本の
配線を接続するだけだ。
専門技術を必要としない分だけ、人集めの時の人事考査が甘くなる。
多少性格的に問題が有ると思われても、人手の確保を最優先とするために、
会社は次から次へと、若い娘たちを雇い入れる。
当然の結果として、職場の空気が荒れてくる。


 しつけはもちろんのこと、倫理や道徳観などには、
一切無頓着な女の子ばかりが、茂のいる職場内に溢れてきたからだ。
問題娘たちがいつしかグループをつくり、裏で職場内を支配していく。
茂にとって最悪の事態が始まったのは、電子部品工場が市内からの移転された
直後からのことだ。


 新しく建てられた工場は、市内の中心部から遠く隔たっている。
新築の工場のほか、同じ敷地内に真新しい女子寮が2棟、建設された。
山間の僻地に建てられたこの女子寮は、グループの不良少女たちの手により
あっというまに「いたずらといじめの」の巣窟に変貌を遂げた。


 気に入らない女子従業員への、村八分がはじまった。
陰湿ないやがらせが、看視の甘い女子寮の中で連日のように、
繰り返されるようになった。
内部からの告発を受けた会社が、管理職の茂に女子寮への
立ち入り調査を命じる。
しかしすでに待ちかまえる準備が出来ていた寮の首謀者たちは、
やって来た茂に巧妙な「罠」を仕掛ける。



 立ち入り調査が予定されていたその前日。
茂が被害者のひとりだと名乗る女の子から、夕方時に呼び出される。
「人目があるとまずいから、どこか静かで安心な処で話がしたい」
という口車に乗せられて、言葉巧みにラブホテルへ誘導されてしまう。
女の子はさんざん泣き事を並べたあげく、感極まった風をよそおって、
「秘密を守ってくれるなら、お礼として私をあげます」と、
言葉巧みに誘惑をする。
もちろん、首謀者たちによる最初の策略のひとつだ。
だが、そうとは気付かない茂が、いとも簡単にこの「罠』に捕まってしまう。