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連載小説「六連星(むつらぼし)」 第6話~第10話

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 「おいおい、お前!。やぶからぼうに、不意うちは卑怯だ。
 来るなら来ると、ちゃんと言ってくれ。
 その気が有るなら、ちゃんと正面からキスをしてくれよ。
 俺も男だ。正々堂々とお前の好意を受けてやる」

 「ばっかじゃないの、あんた。
 感謝はしてるけど、タイプでもないあなたに、
 私が真正面からキスするなんて、絶対に死んでも有るはずがないでしょう。
 ほっぺにキスしただけでも、私に感謝をしなさいよ」


 「はい・・・・おおいに、感謝をしています。」


 響が大きな声をあげて、笑い始めてしまう。
金髪の英治も頭をかきながら椅子を元に戻し、照れた顔のまま座り直す。


 「あんたも聞いたとおり、わたしは湯西川からの家出娘です。
 岡本のおっちゃんの話で分かったように、私に、父親はいません。
 お母さんは、ここのトシさんとは同級生です。
 中学を卒業をしてすぐに、湯西川で15歳から芸者修業に入りました。
 おっちゃんが言うほど、特に寂しい想いをしたことはなかったけど、
 物ごころがつくまで、なぜ私にはお父さんが居ないのと、
 母を困らせていたことも事実です。
 ん・・・・なにをいまさら逃げてんのさ。そんなに腰を引いて。
 そんなに遠くに座らないで、もっとこっちに来なさいよ。
 頼まれたって、私はあなたを無断で迫ったりはしません。
 短大に通うため、2年ほど宇都宮で独り暮らしをしてきたけど、
 定職が見つからず、アルバイトとパート仕事を繰り返してきました。
 あきらめて生まれ育った湯西川に戻ったけど、狭い田舎の温泉町だもの、
 やっぱり、ろくな仕事がなかったわ。
 家出と言うほどのものではないけれど、ただ単に有り金をもって
 ヒョイと東京に遊びに出ただけのことです。
 でもね、桐生に来たのには、実は別の目的が有るの」


 「桐生で、オヤジを探すつもりなんだろう?」


 「あら、鋭いわねあんた。でも、なんでそう思ったのさ」
 
 「簡単なことだ。
 芸者が旦那もパトロンも持たずに一人身を過ごすというには、
 それなりの訳が有る。
 芸者になる前、もしかしたら好きな人がどこかにいたと
 考えるのが普通だろう。
 その前のことと言えば、生まれ故郷にいる同級生のひとりだろう。
 そんな風に見当をつけて、この桐生にやって来たんだろう。
 お前は」

 「てっきりぼんくらかと思っていたけど、まんざらでもなさそうね。
 ところであんたのほうはどうなのさ。
 わたしの自己紹介は、だいたいは今の話で済みました。
 今度は、あんたの話を聞かせてよ」


 「俺の身の上か・・・・聞いてもつまんないぜ。
 あまりにも壮絶すぎて、世の中の不幸のひとりで背負ったみたいな話が
 延々続くぜ。
 24歳にして俺はすでに世間の悲惨さのすべてを、経験した」


 「あんた、その顔で24歳なの!。なんだ~あたしと同じ歳じゃんか」

 「えっ、お前も24歳。さっき聞かれたときは・・・
 たしか21歳といってたくせに!」

 「ばっかじゃないの、あんた。
 女が本当のことをしゃべると思ってんの。甘いわよ。
 でも、私の年齢のことは、ここだけの私とあんたの秘密だよ。
 私が本当の歳をばらしたら、ここでは誰も昔のことを教えてくれないもの。
 だから3歳だけ、歳を誤魔化したの。
 大人たちは、私たちなんかよりも、はるかにもっとずるいもの」

 「おめえは見かけによらずは悪知恵がきくなぁ。
 やっぱり只者じゃねぇ・・・・」

 「そんなことよりも、あんたの身の上話はどうしたの?」


 「おう、今しゃべってやるから聞いてくれ。ただし聞いて驚くな。
 世にも不幸な話のはじまりだぜ」


 「わたしには、あんたみたいな不良で自称、童貞だという24歳が、
 この世の中に存在をしているというほうが、よっぽども、
 摩訶不思議な話だわよ」