連載小説「六連星(むつらぼし)」 第6話~第10話
連載小説「六連星(むつらぼし)」第6話
「英治の生い立ち(1)」
「決めて来やした!」
金髪の英治が得意そうな顔で、蕎麦屋の六連星へ。戻ってきた。
右手には、それなり厚みのある封筒が握られている。
手元の様子にいち早く気がついた岡本が、英治をにこやかにテーブルへ
手招をする。
なみなみとビールを注ぎ、まずは喉を湿せと、コップを英治に手渡す。
「ほうら見ろ。お前は本気になって真剣に取り組めば、
何でもできるタイプだ。
支度金までぶん捕ってきたところを見ると、条件もまあまあだろう。
いまひとつ融通が足りないお前にしたら、今回は上出来だ。
一人前の仕事が出来たんだ。ついでだ、最後まで響を手伝ってやれ。
その金で明日は、響の衣装合わせを手伝ってこい。
家出中の響のことだ。ろくな衣装を持っていないだろう。
だいいち、栃木の山奥から出てきたばっかりの田舎もんの山ザルだ。
念入りに、なるべくいいものを探してやれ。馬子にも衣装だからな。
おい、トシ。勘定してくれ。
英治、お前は今日はもういいぞ。
俺もこいつらともう一回りをしたら、それで帰るから、
お前は今日は、ここで休め」
懐からサングラスを取り出し、岡本が立ちあがる。
勘定をすませ先頭を切って玄関から姿を消すが、半分だけ身体が去りかけた処で
ヒョイと顔だけが振り返る。
「言い忘れていた。
いいか響。決して油断はするんじゃねえぞ。
金髪の英治は気だてはいいが、すこぶるの単細胞だ。
臨機応変に物を考えるタイプじゃねえ。
今日みたいに良い結果で仕事をこなしてくると、調子に乗りすぎて
テンションをあげすぎる傾向が有る。
気が大きくなると、おうおうにして暴走をする場合も多い。
ことに、女に関しては手が早くなる。
まぁその辺りを、充分に注意をするんだな。じゃあな」
「へぇ~・・・そうなんだぁ、あんた」
「あっ、それから、もうひとつだ。
言い忘れたが、そいつはいまだに、自称『童貞』だ。
やる時は上手くやらねえと、中途半端で終わっちまうかもしれねえぞ。
もしものときは、うまくやさしくリードをしてやれ、頼んだぜ、
あっはっは・・・・」
引き戸から顔だけを残し、さらに余計なひと言を付け加える。
じゃあなとウインクをした瞬間に、引き戸が音をたててピシャリと閉まる。
響が胡散臭そうな目で、金髪の英治を振り返る。
バイ菌かゴキブリでも見るような時のような、きつい響の目線だ。
「そうなの? それも本当なの・・・・ねぇあんた」
まあまあそのくらいにして、と、見かねて俊彦が仲裁にやってきた。
当の金髪の英治は、もう耳まで真っ赤にしてうなだれている。
そんな英治の様子に思わず響が、小鼻にしわを寄せて小声で笑う。
(・・・・いやだ、こいつったら。不良の割には真面目すぎる!)
「ほら、英治君。
今日は仕事も、せっかくの早上がりだ。
俺がおごるから、少し響と二人で呑んでいけ。
響の就職の前祝いだ。
お前さんの骨折りで就職が実現したわけだし、
響も、そうそうこいつを嫌わずに、英治君とつきあってやれ。
もとはと言えば、お前のために骨をおってきたんだぜ。
少しくらいの感謝をしたらどうだ」
ビールとグラスを二人の目の前に置くと、俊彦も玄関の引き戸に手を掛ける。
「煙草を買いに行って来る。ついでに少しばかり散歩してこよう」
そう言い残すと、俊彦は返事も待たずに格子戸を閉める。
静かになった店内には、気まずい雰囲気が漂ったまま二人だけがとり残される。
「ありがとうって言うべきなのに・・・・たしかに私はうっかり者ですねぇ。
私のために、せっかく頑張ってくれたのに、
感謝の言葉を言うのを忘れていました。
はい、どうぞ、とりあえずビール。
トシさんまで気を利かせて居なくなったんだもの。
ここは私の、ちゃんとお礼をします。
はい、金髪の英治君。あそこに書いてあるあのポスターの文字は、
いったい何と読みますか!」
響が、カウンターの上に張ってあるポスターを、パッと指さす。
英治がその指の動きにつられて、壁にあるポスターを見上げる。
がら空きとなった英治の右側の頬へ、すかさず響が軽くチュッと唇を触れる
その瞬間、英治が椅子を倒して立ち上がり、あわて後ろへ飛び下がってしまう。
100万ボルトの電流にはじかれた時の様だ。あっというまの俊敏すぎる
動作ぶりだ。
(いやだぁこいつったら!。やっぱり本当に童貞なのかしら、
英治ったら・・・・)
「英治の生い立ち(1)」
「決めて来やした!」
金髪の英治が得意そうな顔で、蕎麦屋の六連星へ。戻ってきた。
右手には、それなり厚みのある封筒が握られている。
手元の様子にいち早く気がついた岡本が、英治をにこやかにテーブルへ
手招をする。
なみなみとビールを注ぎ、まずは喉を湿せと、コップを英治に手渡す。
「ほうら見ろ。お前は本気になって真剣に取り組めば、
何でもできるタイプだ。
支度金までぶん捕ってきたところを見ると、条件もまあまあだろう。
いまひとつ融通が足りないお前にしたら、今回は上出来だ。
一人前の仕事が出来たんだ。ついでだ、最後まで響を手伝ってやれ。
その金で明日は、響の衣装合わせを手伝ってこい。
家出中の響のことだ。ろくな衣装を持っていないだろう。
だいいち、栃木の山奥から出てきたばっかりの田舎もんの山ザルだ。
念入りに、なるべくいいものを探してやれ。馬子にも衣装だからな。
おい、トシ。勘定してくれ。
英治、お前は今日はもういいぞ。
俺もこいつらともう一回りをしたら、それで帰るから、
お前は今日は、ここで休め」
懐からサングラスを取り出し、岡本が立ちあがる。
勘定をすませ先頭を切って玄関から姿を消すが、半分だけ身体が去りかけた処で
ヒョイと顔だけが振り返る。
「言い忘れていた。
いいか響。決して油断はするんじゃねえぞ。
金髪の英治は気だてはいいが、すこぶるの単細胞だ。
臨機応変に物を考えるタイプじゃねえ。
今日みたいに良い結果で仕事をこなしてくると、調子に乗りすぎて
テンションをあげすぎる傾向が有る。
気が大きくなると、おうおうにして暴走をする場合も多い。
ことに、女に関しては手が早くなる。
まぁその辺りを、充分に注意をするんだな。じゃあな」
「へぇ~・・・そうなんだぁ、あんた」
「あっ、それから、もうひとつだ。
言い忘れたが、そいつはいまだに、自称『童貞』だ。
やる時は上手くやらねえと、中途半端で終わっちまうかもしれねえぞ。
もしものときは、うまくやさしくリードをしてやれ、頼んだぜ、
あっはっは・・・・」
引き戸から顔だけを残し、さらに余計なひと言を付け加える。
じゃあなとウインクをした瞬間に、引き戸が音をたててピシャリと閉まる。
響が胡散臭そうな目で、金髪の英治を振り返る。
バイ菌かゴキブリでも見るような時のような、きつい響の目線だ。
「そうなの? それも本当なの・・・・ねぇあんた」
まあまあそのくらいにして、と、見かねて俊彦が仲裁にやってきた。
当の金髪の英治は、もう耳まで真っ赤にしてうなだれている。
そんな英治の様子に思わず響が、小鼻にしわを寄せて小声で笑う。
(・・・・いやだ、こいつったら。不良の割には真面目すぎる!)
「ほら、英治君。
今日は仕事も、せっかくの早上がりだ。
俺がおごるから、少し響と二人で呑んでいけ。
響の就職の前祝いだ。
お前さんの骨折りで就職が実現したわけだし、
響も、そうそうこいつを嫌わずに、英治君とつきあってやれ。
もとはと言えば、お前のために骨をおってきたんだぜ。
少しくらいの感謝をしたらどうだ」
ビールとグラスを二人の目の前に置くと、俊彦も玄関の引き戸に手を掛ける。
「煙草を買いに行って来る。ついでに少しばかり散歩してこよう」
そう言い残すと、俊彦は返事も待たずに格子戸を閉める。
静かになった店内には、気まずい雰囲気が漂ったまま二人だけがとり残される。
「ありがとうって言うべきなのに・・・・たしかに私はうっかり者ですねぇ。
私のために、せっかく頑張ってくれたのに、
感謝の言葉を言うのを忘れていました。
はい、どうぞ、とりあえずビール。
トシさんまで気を利かせて居なくなったんだもの。
ここは私の、ちゃんとお礼をします。
はい、金髪の英治君。あそこに書いてあるあのポスターの文字は、
いったい何と読みますか!」
響が、カウンターの上に張ってあるポスターを、パッと指さす。
英治がその指の動きにつられて、壁にあるポスターを見上げる。
がら空きとなった英治の右側の頬へ、すかさず響が軽くチュッと唇を触れる
その瞬間、英治が椅子を倒して立ち上がり、あわて後ろへ飛び下がってしまう。
100万ボルトの電流にはじかれた時の様だ。あっというまの俊敏すぎる
動作ぶりだ。
(いやだぁこいつったら!。やっぱり本当に童貞なのかしら、
英治ったら・・・・)
作品名:連載小説「六連星(むつらぼし)」 第6話~第10話 作家名:落合順平