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ドラゴンの涙(1)

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第1章:トレジャーハンター





 やれやれ、とラゴールは最近とみに髪の抜けてきた頭を擦りながら、頭を左右に振った。
 全くもって何の為に彼を雇ってやったというのだろう。
 あんなに毎日毎日呑んだくれている挙句に、客の女性たちに手を出してばかりでは、ラゴールの商売の方が立ち行かなくなってしまう。
 彼の腕前だけは認めてやっているつもりなのだが、あれでは全くもってそれも役に立たないのではないかと思ってしまう。幸いなのは、彼を雇ってからは、1度も店の中で騒ぎが起こったことはなかったが、それは単純に『運』というものだろう。
 ロッキー村は王国の中では小さい方の村だが、決して安全な地域というわけではない。
 それは、王都ラールへと通ずつ道が此方から彼方へと通じている為である。
 幾人もの商売人や旅人たちがこの村を通り過ぎ、王都へと向かっていく。中には高価な品物を抱えた者もいたりなどして、彼らを狙って追いはぎや盗賊ギルド団たちが押し寄せたりなどもしてくる。
 王国でもそれを慮って、警備隊を常駐させてはいるが、数人しかいない彼らだけではとても手に追うことは出来ない。
 それもあって、この村で商売を行っている者の中には、自ら自警団を組んだり、もしくは、ラゴールのように用心棒を雇い入れたりするような者も少なからずいた。
 ラゴールの商売は旅籠兼酒場である。
 王都へと出向く以前、もしくは、故郷へと戻る途中の商売人や旅人たちが立ち寄り、泊まっていったりする者もいれば、食事だけで済まして急いで出て行く者もいる。当然人の出入りも激しいから、中にはロクでもない人間もいたりもする。
 正直言うなれば、彼もそのロクでもない人間の1人だった。
 この村にフラりとやってきたかと思うと、金もないくせに、酒を頼み、飯を食べ、それが数日間も続いたのだ。
 ラゴールは基本的には人のいい親父であったらから、それ相応の理由があるのであれば無銭飲食も見逃してやるタイプの人間ではあったが、流石に店で働いている女の子の1人に手を出しかかれては、堪忍袋の緒も切れた。
 つとそこへ唐突に現れたのが、ここら一体を縄張りにしている盗賊ギルド団のひとつだった。たまたま、その日は上等な絹織物を抱えた商人が泊まっていて、それを知った彼らがラゴールの店に襲い掛かってきたのだ。
 警備隊も赤い顔をして駆けつけてきたし、自警団も警棒を片手に助けにやってきた。
 が、中の1人に中級の黒魔法を操る邪術士がいて、彼らはその人物に苦戦を強いられた。
 その時、酔っ払ってクダを巻いていただけだったはずの彼が、むっくりと起き上がったかと思うと、目にも止まらぬ速さで腰に差していた銃を引き抜いたかと思うと、ギルド団のメンバーを次々に撃ち抜いていったのだ。
 彼は世間で言われているところの『銃使い(ガンナー)』と呼ばれる男だったのだ。
 ラール王国、いや、世界で数えても『銃使い』と呼ばれる人間たちの存在は片手で数えるほどにもいないかもしれない。それは、銃そのものの数も少ないということもあるのだが、それを使いこなすことの出来る人間が限られていることもあった。
 相当の精神力と魔力とが必要なのだ。
 現在は銃を製造している職人は皆無である。
 惑星の創世記頃、たった一人、銃を造っている者がいた。その人物は『伝説の勇者クライン』と共に旅をした1人、『銃使いのレオン』と呼ばれた女性である。彼女自身は魔法を操ることは出来なかったが、類まれなる魔力の持主であり、自身の奥に眠る魔力を引き出す為の道具として、それらを造り、使用していたと言われている。その数はいくばくかのものであるかは判っていないが、現在残っている銃は彼女の造った品物の残りと考えられている。であるから、彼女と同等、もしくはそれ以上の精神力と魔力との持主でない限りは、銃を使いこなすことは出来ない、というのが専らの噂である。
 が、彼はいともラゴールの目の前で、簡単にそれを使ってみせた。
 恐るべき男だとその時は思った。
 この男を怒らせるべきではない、とも。
 それ以来、彼の噂がこの辺り一帯に広まったおかげで、他所から来る者たちを除いて、滅多にこの村に襲い掛かってくるものはいなくなった。
 まさに彼のおかげといったところか。
 だからというわけでもないが、ラゴールはその礼も兼ねて、彼をこの店―――もしくは、村の用心棒として雇い入れることにしたのであったが……。
 しかし、今のただの飲んだくれの、女好きのいい加減な男でしかあらず、全くもって用心棒としても役に立っていない、それどころか、どちらかというと、やはりお騒がせタイプであり、店で働く従業員たちにもあまり好かれてはいない。客たちの受けはいいようなので、それだけがせめてもの救いだろうか。
 が、ラゴールは彼を厭うことは出来なかった。どちらかといえば、好きなくらいだ。だからこそ、彼が好き勝手をやっても怒りを感じるというよりは、呆れることの方が多かったのだが、流石に今夜は少しばかり説教をせざるをえない状況であるかもしれない。
「おい、クライブ」
 カウンタの向こう側から彼の名前を呼びかけたところで、勢い良く扉が開け放れたかと思うと、燃えるように赤い髪を持つ手足の長い女性が飛び込んできた。
 客たちの驚愕の表情が彼女に向けられる。
 かと思う間もなく、武装した男たちが次々と店の中に入ってきた。
 考えるまでもなく、この男たちに彼女は追われているのだろう。
 髪と同じ炎の色を持つ瞳が爛々と輝きを放ちながら、自分を追ってきた男たちを睨み付けている。
 店の中で面倒はゴメンだと思いながら、ラゴールは自分の雇った用心棒の方に視線を向けた。この騒ぎに気づいていないわけもないはずなのに、彼はウイスキーのグラスを持ったまま、相変わらず隣に座った女性を口説いているだけだ。
 頭がズキズキと痛みを放ってきそうなのに、ラゴールはしかめっ面を作ってみせる。こんな時に働かないで、いつ彼は働くつもりなのだ。
「もう逃げ場はありませんよ、カスミさん」
 到底悪人とは思えぬ柔らかな女性の声が聞こえてきたかと思うと、男たちの影から、頭頂部に水晶球がはめ込まれた杖を握り締めた少女といってもいいくらいの年齢の背の低い女性が現れた。
「命を失いたくないのなら、早くあの地図を返して下さい」
「冗談言わないで。元々あのお宝はアタシのものなんだから。あんたこそ、死にたくなければ、さっさと帰って大好きなお姉ちゃんのおっぱいでも吸ってなっ」
「………」
 とても追われている立場の人間とは思えぬ言動にであろう。少女の細い眉が微かにであるが、吊り上げられる。
 と、少女が軽く杖の上方を揺すった。
 いっせいに男たちが彼女に飛びかかっていく。
 巻き込まれては敵わないとばかりに、店の客たちが四方八方に散らばっていく。
 まだ宵の口でもあり、酒場はこれからが勝負であるのに、邪魔をされて、今度こそラゴールの頭は痛みを発し始めた。
 が、彼の思いなど全く彼らには関係なく、男たちはそれぞれに武器を持ち、彼女に襲い掛かっていく。
作品名:ドラゴンの涙(1) 作家名:かいや