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連載小説「六連星(むつらぼし)」 1話~5話

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 背後から俊彦が、追加のビールを持ってやってきた。
だが苦虫をかみつぶした岡本が、そんな俊彦にも負けじとばかりに食いつく。

 「トシ。そう言うお前さんだって分からねえぜ。
 俺のことを笑って居る場合じゃねぇ。
 お前さんだって、板前修業をしていたころはあちこちのホテルで、
 女どもを随分と泣かせてきたはずだ。
 一人や二人、子供がいたって何の不思議もねぇ。
 今に見ていろ。そのうちに、『おとうさん』なんて言いながら、
 見覚えのない娘が、ある日突然ひよっこりとお前を訪ねて来るからな。
 いまのうちから、覚悟をしておいたほうがいいぞ。
 昔から、災難は忘れたころにやってくると、良く言うからな!」


 「まさか・・・・
 いや、まったく無いと言えば嘘になるが、
 そんな心配は、特に俺に関しては、ないだろう・・・・
 いいやっ。俺に限って絶対に、たぶん、あり得ない話だ」


 曖昧に笑いながら、俊彦が厨房へ消えていく。
そんな俊彦の様子を、何故か響が、疑惑に満ちた眼差しで見送っている。
そんな響の様子をそれとなく見つめている岡本も、なんとなく
違和感を感じている。

 (そういえば、この子の生まれは、たしか湯西川温泉と言っていたな。
 まさかあん時に行きあった、清子の娘じゃないだろうな・・・。
 いや、ついこの間、清子から娘が家出をしたから探してほしいという
 電話が有った。
 ということはやっぱり清子の娘か。そういえば、目元のあたりが良く似てる) 

 厨房に戻った俊彦が何事もなかったように、いつも通りに煙草をくわえる。
夕刊を手にするとそのまま厨房の椅子に座りこみ、背中を丸めて
読み始めてしまう。
そんな俊彦の様子を、一度も目を離さず響が見つめている。
岡本の脇でお盆を抱えたまま、身動きひとつせず、いまだに俊彦を
注視している。
『コホン』という岡本の空咳が聞こえてくる。
「あっ・・・」正気に戻った響が、あわててお盆を片手に動き出す。


 「あ、なんだ、その・・・・わるいな、響。
 ビールがいつの間にか空になっちまった。すまないが一杯注いでくれ」

 「あ、はい・・・・」


 止まっていた空気が、スローモーションのストップ状態から、
静かにまた、蕎麦屋の店内で動き始める。
ふち違和感を感じた俊彦が、読み込んでいた夕刊から顔を上げる。
だが店内に、これといって変った様子は見当たらない。
テーブルを挟み、向かい合っている響と岡本が、いつものように
談笑を続けている。


(別に変わった様子は見えないな。だが、それにしても今の気配は何だ。
 ずっと誰かに見つめられていたような気がしたが・・・・)

 夕刊から目を離した俊彦が、談笑している響の背中を見ながら、
ぽつりと、そんな風につぶやいている・・・

5話につづく