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連載小説「六連星(むつらぼし)」 1話~5話

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連載小説「六連星(むつらぼし)」第2話 
「響(ひびき)の身の上」

 「美味しかった!オジサン。
 たしかに、さっき出合った、怖い不良が絶賛するだけの事はあるわねぇ。
 出汁がちゃんとしていて、私、久々に感激しました。
 甘味は昆布で、ちゃんとカツヲの風味も出ています。
 これこそ和食の本道だと言う、ほんとに丁寧なお仕事ぶりです。
 久々にこれが本物の蕎麦出汁というものに、出合いました」


 「ほう~『通』だねぇ君は。見上げたもんだ。
 若いのに、ちゃんと和食の良さがわかっているなんて、たいしたもんだ。
 良質な味覚だ。いったいその若さでどこでその味覚を身につけたの」


 「お母さんの手料理です。
 母は、いま流行りの化学調味料は一切使いません。
 ちゃんとお水から昆布を入れて、沸騰する前にお鍋から取り出します。
 その後に本節の鰹節(かつおぶし)を使います。
 使うたびに削っているんだもの。いい香りもたっぷりと漂います」


 「なるほど、たしかに本格的な和食の出汁のとりかただ。
 ありえないほど、凄すぎるお母さんの手料理だねぇ。驚いたなぁ。
 で、君のお母さんは、いったい何をしている人なの」


 「芸者さんです。
 湯西川温泉で、30年も生き残った本物の芸者です」


 「ほう、湯西川で芸者さんを30年も。で、お母さんの、名前は?」


 「源氏名ですか? それとも本名かしら?
 もしかしたら私のお母さんのことを知っているみたいですねぇ、
 今の反応ぶりは。
 オジサンが、お母さんが良く語っていた昔馴染みの同級生なのかしら・・・・
 年格好も、母とおなじくらいに見えるもの」

 「と言うことはお母さんは、ここ桐生市の出身かい?」


 「はい。でもなんだか妙な反応ですねぇ。
 もしかして・・・・もうすっかり、私のことがばれてるみたいな
 気配を感じます。
 母が芸者をしていると聞いても、オジさんはまったく驚かないし、
 なんだか私が来るのが前もって、解っていたような雰囲気があるもの。
 先に、私の方から白状をしちゃいます。
 実は、家出をしてから今日で10日目になりました。
 東京で短大時代の友達の所を転々と、遊んできましたが、
 それにも飽きて、そろそろ帰ろうかななどと里ごころが生まれました。
 お母さんがカードも止めてしまったため、旅費のほうも、
 あっというまに無くなりました。
 仕方がないので、ドキドキしながらオヤジたちを騙して、、
 此処まで戻ってきたんだけど
 ふとここが、お母さんの生まれ故郷だということに気がつきました」


 「数はいずれにしても、オヤジたちを騙してきたというのは
 本当の話だったのか。
 まぁそれはいいとして、それで、桐生で何をするつもりだ」

 「まだ、右も左もわからない町です。
 何も決めてはいませんが、とりあえず、昔お母さんが暮らしていたという、
 古い家並みばかりの、桐生の景観を満喫したいと思います。
 のこぎりの形をした三角屋根の織物工場を、是非、見たいと思います」


 「それなら、奥の方にたくさんある。
 本町の1丁目から2丁目にかけてが、そう言う建物が密集する一帯だ。
 伝統的建築物保存地区と呼ばれている。
 この夏のあたりに、群馬県で正式に承認をされるはずだ。
 お母さんが小学生のころに暮らしていたのは、
 赤いレンガ塀がある工場の近くだ。
 そこに細い路地がある。
 その路地を入って、一番奥に有る建物がお母さんが暮らしていた家だ。
 蔵を改造したもので、昭和生まれの古い民家がそうだ」


 「なんで知ってんのさオジさんは。そんな詳しいことまで・・・・」


 「オジさんのほうが、突然すぎる偶然にびっくりだ。
 君が書き置きをして家出をしたその夜、もう、
 お母さんの清ちゃんから電話が有った。
 娘が桐生に立ち寄るような事があったら、連絡をしてくれと頼まれた。
 そのおかげで清ちゃんに子供がいるという事実を、初めて知った。
 子供が居ることに驚いたが、それがたった今会った君とは、もっと驚きだ。
 で、どうすればいい・・・・
 頼まれた通り、君のお母さんに連絡をしたほうがいいのかな? 」

 「見逃してもいいが、と今、私には聞こえました。
 それって私の、気のせいですか? 」


 「なるほど・・・・
 清ちゃんが言うように、君はたしかに頭の回転は速い。
 お母さんも心配していたが、強制的に送り返してくれとまでは言ってない。
 もう大人なんだから、あの子の判断に任せて下さいと念を押された。
 それでも急に娘に家出をされて、私の前から消えてしまうと、
 いつかは手離なすつもりで育ててきたけど、やっぱり、
 どうにも寂しくなるから不思議ですねぇと、寂しそうに笑っていた」