PALMS
ルナルナは俯いたまま小さく頷いた。今はサバシの言葉を信じるしかなかった。
バッサの日。ルナルナは不安げな表情で国王の横に座していた。
そして合図と同時に、選手たちは次々に木に登り始めた。
その時、ドスンという重い音が響いた。椰子の実が落ちた音だ。皆はまだ木に齧り付いたばかりで、誰も椰子の実のところまで到達していない。
椰子の実を拾った男。それはサバシだった。サバシは右手で椰子の実を高々と掲げる。そして左手には改良した弓が握られていた。そう、現代でいうところのボウガンのようなものであろうか。
「サバシ!」
ルナルナの瞳が歓びに輝いた。しかし神官が異議を申し立てた。
「あれは反則でござる。そもそもバッサは姫君にふさわしく、次期国王にふさわしい強い男を選ぶための儀式でござる。あのような姑息な道具で儀式を汚すとはもってのほか!」
神官の言葉に国王も頷いた。しかしサバシは進み出て堂々と言って退けた。
「確かに強いことは大切なことです。しかし人の強さは腕っ節だけで決まるものではありますまい。この弓は私が作ったものです。これは力も要らず、誰にでも扱えます。敵が責めてくれば、遠くから攻撃できましょう。だが私はこれを、戦いの道具には使いたくありません。これを漁師に与えれば、銛よりも正確に魚を採れましょう。私は力は人並みですが、創意工夫なら他の誰にも負けません。島人の幸福のために使いたいのです。私の姫君と島の民を想う気持ちは他の誰にも負けませんぞ」
国王はサバシの言葉に「うーむ……」と唸った。しかし神官は顔を真っ赤にして怒りを露わにしている。
「貴様、伝統を何と心得る?! 王様、こやつの口車に乗せられてはいけませぬぞ!」
国王は腕組みをして静かに目を瞑った。重い時間が周囲を支配する。
ようやく国王が目を開くと、横にいるルナルナの方を向いた。
「愛する我が娘、ルナルナよ・・・・・・。お前の意見を聞こう」
ルナルナは一旦、サバシの瞳を見つめた。サバシの瞳には一点の曇りもなく、また臆することもなくルナルナを見つめている。そして国王の方へ向き直り、進言した。
「私はサバシの言うことが正しいと思います。強い男も老いさらばえれば、非力になります。彼なら一生、私と島の民に幸福を与え続けてくれるでしょう。是非、彼を婿に・・・・・・」