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ろーたす・るとす
ろーたす・るとす
novelistID. 52985
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便利屋BIG-GUN2 ピース学園

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 ここから西へいった場所。この街で一番地価の高い高級住宅街。
「事務所」
 駅南口から少し離れた辺り。
「ボスの別荘」
 これは……
「全部は手が回らないだろう。ニチバの壊滅は俺がやる。お前は松岡をやれ。どこにいると思う」
「別荘だろう」
 クナイトは頷いた。
 松岡はどんな時も効率を考える男だった。仕事場の近くに潜んでいるのは間違いない。
 別荘はピース学園から1kmと離れていなかった。
「あとの二つは引き受けた」
「じゃあな」
 俺は早足でドアに向かった。その背にクナイトは声をかけた。
「いつ仕掛ける。今夜か?」
「今夜?」
 俺は笑った。
「兄貴にしては呑気だな」
 振り返って宣言した。
「すぐに行くさ」
「幸運を」
 兄貴は無表情に言った。また体が震えてきた。
 同時にひとつ考えが浮かんだ。
「松岡の奥さんが発病したのは一昨年位だったな」
「そうだ」
 だとしたら。
「俺が家出した頃だ。松岡は教育係として俺の家出に責任を感じて相談できなかった…… ということは?」
 クナイトは冷たく答えた。
「そんなことは本人に聞いても答えてくれないな。だとしたらどうする」
「俺に松岡を殺す資格があるのか?」
「人殺しに資格が必要なのか?」
 正論…… なのか?
「契約は成立した。プロとして仕事を果たせ。でなければ俺に命を狙われるだけだ」
 クナイトの目は本気だった。氷のような目。ギリシャ神話の神のような目だ。俺は今どんな目をしているんだろう。
「俺はプロとして仕事を果たす。自分の命が惜しいからじゃない。自分の判断で松岡を殺さなくていいと判断したら、あんたを殺してでもヤツを守るぞ」
 俺とクナイトの間に何かが走って揺れた。
「それで構わん」
「承知した」
 俺は部屋を出た。
 俺は今何をやっている。何をしようとしている。
 クナイトは俺が家を出るとき親父に言ってくれた。
「こいつが家を継ぐというなら俺は喜んで後継者の座を譲って全力でこいつを補佐します。だがこいつがそれを願わないなら、こいつのやりたいようにさせてやってください」
 俺は瞳を閉じ師匠に問いかけた。
 松岡、もう一度だけ教えてくれ。俺は正しいと思うか?

 駐車場にはランクルが停めてあり必要な装備は既に搭載してある。三郎も乗っていた。
「場所はわかった。すぐにいくぞ」
 俺は運転席に着くなり言った。
 三郎は頷いたが発進を止めた。
「電話しとけ。あの子はジュンとは違う」
 ジュンの事件か。思い出したくも無いが。
 俺は携帯を出し瀬里奈に電話した。思いのほかすぐに出た。
「瀬里奈、黒幕がわかった。これからケリを付けにいく」
 電話の向こうで絶句しているのがわかった。
「お前のよく知っているヤツだ。お前は知ってたんだろ?」
 数秒の沈黙のあと、かすれるような声で問いかけてきた。
「殺す…… のね」
 クナイトにはああは言ったが、気休め言っても仕方ない。
「ああ、そのつもりだ」
 また沈黙だ。そのあとの質問は俺には意外なものだった。
「あの子…… あなたの何?」
 ちょっと動揺してしまった。あの子とはジュンの事だろう。
「あの子も狙われて怖いだろうに…… なのに私を何度も慰めに来てくれた。私よりずっと年下なのに」
 言葉を少し選んでしまった。
「あいつはちょっと特別なんだよ」
「強いんだね……」
「ああ、だけどお前が弱いわけじゃないさ」
 少し涙を拭く音がした。
「それで…… あなたにはやっぱり特別な子なの?」
 俺は考えた。本当に考えたんだ。
「俺にとってアイツが何なのかは正直な話わからん」
 瀬里奈は涙声でクスリと笑った。
「それは惚れてるって事だよ」
 そうかな?
「メールで聞かれた事はあるが返事はしてない」
「ばかじゃないの?」
 そうかも。
「俺にとってアイツが何なのかはわからん。が、変な話だがアイツにとって俺が何なのかはよく知ってる」
「なに?」
 瀬里奈の声に「興味」が宿っていた。
「親の仇だ」
 瀬里奈はまた息を呑んだ。
 俺はこの街でアイツの親父さんを撃った。
「あの子は知ってるの?」
「知ってるよ、多分な」
 なのに、ああいう態度なんだ。あいつは。
「私には…… 無理だな」
 それが答えだ。
「…… 普通そうだ」
 瀬里奈はもう返事をしなかった。
「じゃあな瀬里奈」
「…… ケンちゃん!」
 呼び止める声が聞こえたが俺は電話を切った。
 悪いな瀬里奈。結局お前を助けられなかった。
 俺はただの悪党なんだよ。

 松岡を殺す。
 そんな事をして誰が喜ぶ。誰が望んでいる。
 誰もいないじゃないか。
 じゃあなんでやらなくちゃいけないんだ?
 この事件で死んだ5人の高校生のためか。
 ヤツのばら撒いた麻薬で身も心もぼろぼろになり今禁断症状で地獄を見ている連中のためか。
 そんなはずはない。そうかもしれない。
 今確かにやつの死を願っているのはたった一人。
 電話が鳴った。
 瀬里奈ではない。知らない番号。
「Jr.か?」
「よぉ、今度はゆっくり話せるか?」
 松岡本人からだった。
「会いに来てくれるんだろ」
 松岡の声は穏やかだった。教官だった彼のこんな声を聞くのはいつ以来か。
「そのつもりだ。今家か?」
「いや友達の家だ。大勢いてね。こちらからは会いにいけない。私がどこにいるか、わかるか?」
「いや皆目」
 一応とぼけた。
「意外と側にいるよ」
 やっぱりな。
「警察のお友達も?」
 松岡は苦笑した。
「彼は寝坊しているがね」
 デーブもいるのか。手っ取り早い。
「ここは引き払う事になると思う。早く来てくれよ」
「なるべく…… な」
 電話は切れた。
 車を停め装備を身につける。街中だ。あまり目立ったものは持てない。大きめのアタッシュケースを開け中を確認する。
 愛用のサブマシンガンH&K MP5SD6。里森公園に持ち込んだやつだ。
 今回はスコープではなくドットサイトを装着してある。
 拳銃も一応確認する。右腰のホルスターにグロック17。ショルダーホルスターに「安心毛布」が既に収まっている。
 三郎はギターケースを持っている。
 さて…… 行くか。
 俺は三郎に拳を突き出す。やつもつき返しコツンと音がした。
 車をするりと降りる。ここはピース学園の駐車場だ。今日は休み。人はまばらだ。
 俺は小走りに外へ。三郎は悠然と校舎へ向かった。
 
 クナイトの情報は細かかった。
 家の見取り図も勿論あった。土地は200坪以上。建物は平屋で40坪はある。
 俺は裏口へ回り物陰に隠れる。裏庭は木が沢山植えられていて身を隠しやすかったMP5を取り出し予備マガジンを腰に取り付ける。
 MP5SD6はサイレンサー付きのマシンガンだ。音を消すサイレンサーは銃身の先に取り付ける円柱状のパーツだ。サイレンサー内部はいくつもの部屋に間仕切りされており発射されたガスがその中に入り減速する。
 発砲した際の轟音は主に火薬の爆発音だ。それは火薬のガスが噴出す際に発生するのでこいつの流出スピードを抑えれば発射音は大幅に削減される。音はこもっていて少し離れれば聞こえないほどだった。