便利屋BIG-GUN2 ピース学園
俺はデジタルトランシーバーで三郎と会話した。アナログと違い盗聴はほぼ不可能だ。
「準備は?」
「いいぜ」
トランシーバーなので通話は一方通行だがこちらが話し出すと送信、やめると受信に戻る。便利な代物だ。
三郎は今ピース学園屋上にいる。
「駐車場にセダン2台。二人乗りのスポーツカー1台だ」
10人はいると考えなきゃいかんか。
「ここから見える限り庭に3人だ。犬はいないな」
「よし始めよう」
相手はヤクザだ。手加減はいらない。
MP5のボルトのレバーを引く。手を離すとボルトは勢いよく戻り初弾を薬室に叩き込む。戦闘準備完了だ。
物陰から飛び出し低い姿勢で勝手口へ向かう。
裏庭にも一人見張りがいた。木の影に入り構える。セレクターをセミオート(単発)に合わせる。
トーンと遠くで音がした。火薬の音。見張りの男は一瞬どきんとしたがすぐに平静に戻った。学校の側だ。花火やら陸上部のピストルやら火薬の音はよくするのだ。
俺は引き金を引いた。
バシュッというガス音と共に弾丸は発射され男は倒れた。
またトーンと音。もう一回はするはずだ。
三郎が屋上から庭の三人を狙撃しているのだ。
勝手口に取り付いた時もう一回鳴った。それっで銃声が止まったという事は一人一発ずつでしとめたという事だ。三郎なら当然か。
俺はこういう時は頼りになる相棒に連絡を入れる。
「一人倒した。中に入る」
三郎が状況を報告してきた。
「やつら気づいた。外に二人出てきたぞ」
「狙撃はもういいぞ。そこを離れろ」
俺は指示して突入した。
中はキッチンだった。広くて立派。とても一般住宅とは思えない。
一人女中がいた。外が騒がしくなったので表のほうを見ていた。好都合。俺は背後から忍び寄り首筋を手刀で打ちつけ気絶された。すまんね、おばちゃん。
見取り図では部屋は8個。この前はダイニングで左が書斎、ベッドルーム2。右が客間3、居間、応接間、玄関だ。建物はL字をしている。ここはLの角の部分。位置は悪い。挟まれる可能性がある。
低い姿勢でそっとドアを開ける。居間から二人玄関に走っていく。その背中にバーストショットで1射ずつ放つ。MP5SD6はモード切替で1射で3発だけ発射するバーストショットが使えるのだ。二人は前のめりに倒れた。そのまま居間の入り口に狙いを定める。
何事と? と頭を出したヤツがいた。その後頭部へもう1射。脳漿が飛び散った。
ここはここまで。立ち上がり勝手口から飛び出す。MP5のマガジンをチェンジ。右へ走って書斎方面に向かう。後ろから俺を追ってくる物音が聞こえた。木陰に隠れ構える。
勝手口から一人飛び出した。バカか。
引き金を引く。こぎみよいリコイルと共に3発が発射され男は倒れた。
最近のヤクザも劣化したもんだ。これじゃドーピングも必要ってもんだ。
俺は壁伝いに進み庭を確認した。
4人倒れている。もう一人は?
殺気が走った。頭を引っ込める。側の壁がドンと振るえ銃声がした。庭に一人いる。三郎はもう狙撃ポイントを離れたのだろう。あいつは倒す必要は無いのだが…… 俺は来た方へ引き返す。頭のいい奴なら追わずに逃げる。また裏庭の木陰に隠れて待つ。追って来た。だが慎重に建物の影から俺を探している。三郎に報告する。
「裏庭にいる。建物の影に一人」
「引き受けた」
即座に返事があった。奴の仕事は信頼できる。
時間をかけるのはまずい。銃声を聞いた誰かが通報するかもしれない。
やつが少し前へ出た。撃つ。牽制だ。当たるわけは無い。だがヤツは引っ込んだ。ヤツも闇雲に発砲しだした。バカよせ。
突然止まった。
奴が前のめりに倒れる。三郎か。もう庭に着いたのか。奴の声が耳に届いた。
「庭は確保する。行け」
俺はまた勝手口へ入った。
もう人はいないはずだが、デーブがいなかった。注意しなければならない。念のためMP5を再度マガジンチェンジ。
ベッドルームの前まで来た。ベッドルームが二つ並び一番奥が書斎のはずだ。
いる……
体を壁に張り付けドアノブをそっと回す。ドアを開けたが反応は無い。人の声がするのに?
頭を低くしゆっくりと覗き込む。真っ暗な中にベッドが二つ並んでいる。そのうちの一つに誰か寝ている。
寝息ではない。呻き声だ。鼻につく獣の匂いもする。こいつは……
MP5を腰だめに構える。ベッドのヤツが気がついた。
俺は発砲するより先に前方に飛んで伏せた。その頭上を巨体が通過していった。人間を越えたスピードと跳躍力。振り返り銃を撃つ。手ごたえはあった。しかしドーピング野郎相手だ。油断は出来ない。俺は構えたままヤツの動きを待った。
果たして奴は反撃に出た。予想もしなかった動きで。
デーブはただ立ち上がった。銃を構えている俺の前で。
さすがに俺も唖然としたが、それも一瞬だ。
MP5をフルオートで放つ。全弾体に命中したが奴は物ともしなかった。防弾チョッキじゃない。痛みを感じていないんだ。
奴が腕を振った。ベッド脇にあったスタンドが飛んできた。避けるスペースは無い。両手でガードした。すさまじいパワーだ。思わずMP5を落としてしまった。
奴は突進して来た。MP5に固執していたら俺は組み付かれて絞め殺されていただろう。
俺は横っ飛びベッドの上に跳んだ。デーブは目標を見失いそのまま壁に激突した。だがすぐに振り返り手刀を振り下ろしてきた。信じられない事だがベッドがへし折れた。ただ折れたのはベッドだけじゃ無い。奴の腕もボキリと言って変な方向に曲がった。だが奴は痛がるそぶりも見せず折れた腕を振り回してきた。腕に遅れて手首が鞭のようにしなってくる。
化け物め。
俺は飛びのいて腕をかわしショルダータックルをかました。力任せの攻撃の後はバランスを崩しやすい。奴は壊れたベッドに顔から突っ伏した。俺は素早くホルスターのグロックを抜く。間髪いれず奴がだらしなく見せた後頭部と首筋に正確に2発ずつ発砲する。
麻薬中毒患者には肉体的ダメージより神経系の破壊。
基礎知識だ。クナイトならきっと初弾で撃っただろう。反省しなきゃならん。
デーブは痙攣もせずその場に崩れ落ちた。
奴が立ち上がった時の目。焦点が合わず口から泡を吹いていた。
強度のドーピングの副作用だ。おぞましい。
「待っていた、Jr.。流石だな」
聞きなれた声がドアの向こうでした。
ぴょんと飛び起きドアに銃を向ける。
ターゲットはゆっくりと両手を上げながら姿を現した。
癖のある黒い髪、少し痩せ気味の知性ある顔立ち。青いYシャツにスラックス。以前通りダンディな、しかし少しやつれた表情だった。彼は表情にふさわしい気だるい声で言った。
「奥が私の部屋だ。そちらで話そう」
俺の言葉は聞かず、かつての教官は来た方へ引き返していった。デーブの死体にはまるで目もくれなかった。
奥の書斎は狭い部屋だった。
ベッドとデスクがあるだけの殺風景な部屋。
窓は大きいがカーテンが締め切られているので薄暗い。
人生最後の部屋としてはどうだろう。相応しいのか?
作品名:便利屋BIG-GUN2 ピース学園 作家名:ろーたす・るとす



