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ろーたす・るとす
ろーたす・るとす
novelistID. 52985
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便利屋BIG-GUN2 ピース学園

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 松岡は生真面目で欲の無い人間だった。親父に信服して常に親父のためだけに行動してきた男だ。
 だが一つだけ思い当たる事が。
「金が消えたのは去年かその前くらいから?」
「そうだ」
「奥さんの病気か」
 松岡の奥さんが去年亡くなったのは前述の通り。難病を患ったらしい。俺はさらに続ける。
「治療費か」
 クナイトは振り返って頷いた。
「病院から裏を取った。治療に億単位の金が掛かったようだ」
 大金だ。しかし、いやしかし。
「ヤクザの大物だろ。そのくらいの金あるだろ」
 現にクナイトはちょっと話をするためだけにこんな部屋を借りている。ここは2万なんてものじゃない、10万はする部屋だ。それに駐車場にはフェラーリかアストンマーチンが停まっているはずだ。
「松岡は俺や親父に無駄に金を使えと常に言っていた。それが求心力を生むからと。しかしあいつ自身は組織に金を貯めることばかり考えて自らはまるで蓄えなんて持っていなかった」
 ばかな、だからって……
「借りればよかったじゃないか、親父や兄貴に?!」
「俺や親父が松岡に金を貸すと思うか?!」
 兄貴の声が苛立っていた。自分に置き換えてみよう。
 ジムや三郎が金に困って俺に助けを求めてきたら俺は金を貸すだろうか。
「貸すわけが無い」
「当然だ、1億だろうが10億だろうが。足りなければ強盗してだってかき集めてくれてやったさ。話してさえくれれば!」
 常に冷静な兄貴が感情を露にするなど…… 俺の母さんが亡くなった時だけだった。怒っているのではない。
 悔しがっている。
「やぁ、松岡最近奥さんはどうした。顔を見ないな。その問いに松岡は娘のところにやっている。まだまだ子供で困るよと笑って言った。そんな嘘すら見抜けなかった! 俺のミスだ」
 なんだ? わからない。論理的じゃない。
「まて、親父や組織に迷惑かけたくなかった。だから相談できなかった。そんな男が使い込みっておかしくないか」
「不器用なんだよ! 人に気を使うあまり人に迷惑をかけてしまう。どこまでも不器用な男なんだよ」
 不器用の一言で説明がついてしまうのか? こんな生きる死ぬの話が。
 つく。松岡は正にそういう男だった。
「あいつは使い込んだ金を補填するために麻薬の販売に手を出した。逆かもしれん。麻薬の販売をするため手付金として大金を支払ったのかも。麻薬を手に入れるため当時傘下だったニチバを利用した。しかし悪党は人の弱みに付け込むもんだ。逆に脅され手下として利用された。松岡の人脈と知恵があればこの街で暗躍するのは容易い」
 おそらく瀬里奈を殺すと言われたんだろう。
「お前に連絡したのは娘を助けたかったからとニチバを潰して欲しかったから」
 そこでクナイトは言葉を切った。
「そして組織を裏切った自分を始末して欲しかったからだ」
 ぶるっと体が震えた。まだ、まだ違和感がある。
「やけに詳しく話すじゃないか。調べたのか」
 クナイトはじっと俺を見つめてから言った。
「松岡自身から電話があった」
「ふざけんなよ!」
 俺は思わず立ち上がった。
「そこまで知ってて俺に調べさせたのか!」
「相手は松岡だぞ!」
 クナイトも声を荒げた。
「いくら本人の言葉とはいえ組織を裏切りました。なんて言葉を簡単に信じられるか? 確信があれば俺達は人を消せる。だが松岡だ。家族だぞ! 自分だけの確信で殺せるか?! お前も自分の確信だけじゃ殺せないから俺を呼んだんじゃないのか?!」
 その通りだった。俺は松岡を殺す許可をクナイトにもらいたかった。責任を負って欲しかったのだ。
 クナイトはまっさらの状態で俺に調査してもらいたかった。そしてできれば松岡を許す理由を見つけて欲しかったのだろう。
 クナイトは幼い時に家族を失っている。
 それを拾われ真の家族同様に育てられた。家族というものに人並み以上の愛情を持っていた。
 そして松岡は家族同様だった。
 だが俺は許す理由ではなく殺す理由をもって帰ってしまった。
 クナイトは落ち着いてソファーに戻った。大きく息を吸い言った。
「たとえ勘でも俺とお前があいつは有罪と確信した。十分だ」
 兄貴はもうためらわなかった。俺に告げた。
「殺せ」
 体に震えが走った。いつもこうだ。
 殺しの依頼が来ると。
「俺はもう組織の人間じゃない。兄貴の命令は聞けない」
 震えを隠して返答した。しかし兄貴を騙せやしないだろう。
「契約した」
 クナイトは冷たく言い放ちやがった。
「松岡の件を収めるということだけだ。いくらなんでも始末しろは契約外だ。金も300万じゃ」
「後金はまだ払ってない」
 兄貴はさらりと言った。その声は既に商人だ。
「仕事が終わり次第もう300だ」
 沈黙。
「もう一度言うが俺なら人に任せないぞ」
 我ながら感情のこもっていない言葉だった。
「お前と俺達は別の人間だ」
 お前みたいにおセンチじゃないってことか。松岡の命を「仕事」と割り切れる。
「行け…… 松岡が待ってる」
 俺は大きく息を吸った。切り替える。感情をコントロールする。その方法は習った。
 松岡に。
「ニチバの連中と松岡が潜んでいそうな所は目星ついてるか」
「3箇所だ」
 クナイトはこの街の地図を差し出した。そこまで用意済みか。3つ印がついている。
「ボスの自宅」
 ここから西へいった場所。この街で一番地価の高い高級住宅街。
「事務所」
 駅南口から少し離れた辺り。
「ボスの別荘」
 これは……
「全部は手が回らないだろう。ニチバの壊滅は俺がやる。お前は松岡をやれ。どこにいると思う」
「別荘だろう」
 クナイトは頷いた。
 松岡はどんな時も効率を考える男だった。仕事場の近くに潜んでいるのは間違いない。
 別荘はピース学園から1kmと離れていなかった。
「あとの二つは引き受けた」
「じゃあな」
 俺は早足でドアに向かった。その背にクナイトは声をかけた。
「いつ仕掛ける。今夜か?」
「今夜?」
 俺は笑った。
「兄貴にしては呑気だな」
 振り返って宣言した。
「すぐに行くさ」
「幸運を」
 兄貴は無表情に言った。また体が震えてきた。
 同時にひとつ考えが浮かんだ。
「松岡の奥さんが発病したのは一昨年位だったな」
「そうだ」
 だとしたら。
「俺が家出した頃だ。松岡は教育係として俺の家出に責任を感じて相談できなかった…… ということは?」
 クナイトは冷たく答えた。
「そんなことは本人に聞いても答えてくれないな。だとしたらどうする」
「俺に松岡を殺す資格があるのか?」
「人殺しに資格が必要なのか?」
 正論…… なのか?
「契約は成立した。プロとして仕事を果たせ。でなければ俺に命を狙われるだけだ」
 クナイトの目は本気だった。氷のような目。ギリシャ神話の神のような目だ。俺は今どんな目をしているんだろう。
「俺はプロとして仕事を果たす。自分の命が惜しいからじゃない。自分の判断で松岡を殺さなくていいと判断したら、あんたを殺してでもヤツを守るぞ」
 俺とクナイトの間に何かが走って揺れた。
「それで構わん」
「承知した」
 俺は部屋を出た。
 俺は今何をやっている。何をしようとしている。
 クナイトは俺が家を出るとき親父に言ってくれた。