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ろーたす・るとす
ろーたす・るとす
novelistID. 52985
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便利屋BIG-GUN2 ピース学園

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 考えてみると初めての出動だった。
 消防車は闇を切るように赤色回転灯をまわし、マイクで警告しながら赤信号も突っ切っていく。
 はたから見ている限りではうらやましく見えた行為だが実際にやってみると怖いものだ。
 踏み切りを越え学校に近づくと空が夕日のように赤く染まっていた。夜の闇の中にぶっとい煙も
「大火事だ」
 隣の先輩がつぶやく。緊張がありありと伝わってきた。
 すでに多くの消防部隊が集結し消火活動を行っていた。分団長は近くまで行く事を断念し、車を止めて現場に徒歩で走り他の隊を支援する事に決めた。
「いくぞ」
 念のため筒先を担ぎ分団長は走り出す。俺達も続く。野次馬を掻き分け、学校内に入る。
 巨大な火柱があった。
 予想通り北の倉庫だった。
 これだけの炎を間近にすると恐ろしいものだ。死線を潜り抜けてきた俺でも判断力が衰えているのがわかる。
 分団長はすでに放水を始めている仲間を発見すると駆け寄って交代した。
 運動神経は鈍いが生真面目で勉強熱心。なにより責任感が強いリーダーだ。俺は素直にその後ろに従い夢中で消火活動を手伝った。
 考えている事は唯一つ。
 中にいると思われる4人の不良たちの安否。
 俺の人生初めての弟子たちだった。
 
 撤収命令が掛かった。
 消火活動は朝までかかった。
 幸い他の校舎への延焼は防げたが倉庫は全焼してしまった。
 被害者は4名。遺体の損傷が激しく身元の確認は取れていないが恐らくあいつらだろう。
 俺は分団長に現在ここに体験入学している事、連中が知り合いな事、連中から救援要請の電話があった事を伝えた。
 彼は気を落とすなと言ってくれたが明らかに自身が落胆していた。
 ここで消火活動を行った誰にもこの火災の責任は無い。
 それでも全焼、死亡4名だ。誰もが敗北感を感じていた。
 消防士とはそんなものだ。
 引き上げの準備に掛かった時、立ち尽くす生徒会長葉山を見つけた。分団長が気づき「知り合いか?」と声をかけてくれ、行けと言ってくれた。
「すまん…… 白井」
 会長はまだきな臭い現場を見つめながら誰かに詫びていた。俺が近づくと顔を上げ「風見か」とつぶやいた。
「すみません、これは俺のせいかもしれない」
 俺は本心から頭を下げた。反応は予想と違った。彼は静かに笑った。
「いや君のせいじゃない。散々絡んで悪かったな」
 今まで聞いた事のない穏やかな声だった。彼は俺から目を反らしまた燃え跡を見つめた。
「悪いのは麻薬なんぞを学校に持ち込んだ卑劣な大人だ。しかし俺達には結局何も出来んのかな」
 会長の表情には諦めの色が見えた。あの強気な男はどこに言ったのだろう。
「あの、白井ってのは白井健吾ですか」
 会長はまた俺を振り返った。
「聞こえちまったか。そうさ、不良グループのリーダー。元をつけなきゃならんのかな」
 瀬里奈をかばい麻薬事件を警察に訴え、内通者デーブに暗殺されたリーダー。会長と知り合いだったとは。
「あいつとは昔から友達だった。派手なあいつと地味な俺。共通点など無かったが不思議とウマがあった。この高校に二人で入学した時、無気力でただ時間が流れていくだけのこの校風に俺は呆れた。俺までそうなりそうになった。そんな時あいつが肩を叩いて言ってくれた」
 お前生徒会に入って上からこの学校直せよ。俺は出来の悪い奴ら集めてここにも少しは楽しい事があるって教えてやるよ。
「それで生徒会長と不良グループのリーダーに」
 会長は2度頷いた。
「だが俺は何も出来なかった。なんの改革も出来なかったし、あいつを助ける事も、あいつが可愛がっていた仲間を守る事も」
 会長は、いや葉山は泣いていた。無力感、挫折に。
 今の俺とどこが違うのだろう。
 そう考えた瞬間、俺の口は勝手に開いていた。
「まだできる事はあるでしょう」
 俺の中のどこにこんな建設的な俺が住んでいたんだろう。
「球技大会、成功させませんか」
 葉山はさすがに顔を上げた。
「この状況で球技大会を?」
「卑劣な大人なんかに負けない。そう発信しましょう。FMシーに知り合いがいます。ニュースで流してもらって大々的にこの街に宣言しましょうよ」
 葉山は笑った。おもしろい奴だ、と。
「君を疑ってすまなかった。君の噂は前から知っていた。よくないほうの噂だ。麻薬事件を白井から聞いていたからてっきり関係者だと思っていた。だが小森先生から昨日誤解だったと聞いたばかりだ」
 意外な名前だった。
「小森先生は白井の担任だったんだ。教え子を失ってピリピリしていた。あいつが麻薬に手を出したなんて微塵も信じていなかったんだ。それで俺と同じように君を疑い見張っていた。だがその会話をたまたま聞いてしまった君の知り合いの生徒が誤解だと強く説明してくれた。そして昨日の教師の逮捕だ。君が警察に協力してくれたそうだね。それでようやくその生徒が正しかったと我々は知ったんだ」
 俺を擁護した生徒。小森教官と接触したヤツ。
 あいつしか思い浮かばない。あのやろう、そんなこと一言も言わなかった。
 葉山は言い終えるとシャンと背を伸ばし元の生徒会長に戻っていた。
「球技大会の話、面白そうだ。必ず教師たちを説得して開催してみせる。君も出場するのか?」
「ええ、どうしても栄光額を見せたい人がいて」
 たとえ写真だけでも。
「がんばってくれ。だが栄光額はそう簡単には手に入らないぞ」
 爽やかな笑顔だった。はじめて見たが笑顔だとなかなかハンサムだ。
「ありがとう、気力が満ちてきたよ」
 葉山会長は校舎のほうへ去っていった。
 俺も帰ろう。あいつに報告しなければならない。

 会社に戻ると瀬里奈は俺の部屋に閉じこもっていた。
 俺が躊躇した米沢さんの件はジムが代わりに語ってくれたそうだ。すまない、いつも面倒な役ばかり。
 だが俺はもっと悲惨なことを報告しなければならない。こればかりは俺がやらなければならない。
 2階の居間でジュンも心配げにこちらを見ていた。お前への話は後な。
 ノックして入る。瀬里奈はあれほど嫌がっていた俺のベッドの隅に小さくなって座っていた。
「大丈夫か」
 こんな言葉しか思いつかなかった。
 返事はやはりない。
 構わず話し続けることにした。
「米沢さんはお前に嘘をついていたことを後悔して心配していた。麻薬の力ってのは恐ろしい。どんなに意志が強くても抵抗できるものじゃない。麻薬に踊らされてお前を騙していた彼女は本当の米沢さんじゃない。それはわかってやってくれ」
 返事はしなかったが瀬里奈は小さな声で話し始めた。
「なんで麻薬なんかに手を……」
「さあ、それは本人から聞くしかないが彼女は活発な子だ。ある程度楽しい高校生活を夢見て入学してきたんだろう。それがだらだらした校風に絶望していた時、魔が差したんじゃないかな」
 座ったまま、まるで動きもせず瀬里奈は続けた。
「なんでそんな具体的なことを」
「そういう男にさっき会った」
 また沈黙。
「その人はどうなったの」
「白井健吾って友人に助けられたそうだ」
 お前も助けてやれ…… とは言えなかった。今こいつにそんな力は無い。
「リーダー。やっぱり偉いんだね、あの人」
「ああ」