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ろーたす・るとす
ろーたす・るとす
novelistID. 52985
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便利屋BIG-GUN2 ピース学園

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 そろそろかな。時間は10時。中高生を集めるならこのくらいの時間が無難だろう。
 月明かりがかなりあるので俺の目ならスターライトスコープは必要なさそうだ。
 人が集まり始めた。みな若い。どうやら情報通りだ。
 一人二人が次第に増え、20人くらいになったか。
 俺はサブマシンガンH&K MP5を構えた。といっても装弾していない。明るい光学照準器いわゆるスコープ・サイトを装着しているので望遠鏡代わりに使ったのである。F値の小さい望遠鏡は肉眼より明るく見える。こういう暗い場所では便利な物だ。
 連中まで50mくらい。一人一人の顔を確認する。
 不自然なのはこんな時間にこんな場所に集まったのにお互いに顔を見ようとしない。会話も当然無いようだ。そわそわキョロキョロしているヤツもいる。
 装着していたデジタルトランシーバーのヘッドセットから声がした。
「そろそろか?」
 問いに対し俺は「ちょっと待って」と言い全員を確認した。
 いた。やっぱり来ちまったか。
 ため息をつきつつ辺りを確認する。隠れられるような場所をスコープでじっくり見る。茂み、ロッジハウス。
「隊長、大丈夫です」
 OKと声がし点呼が取られる。
 スタンバイがかかる。
 チャージングハンドルを引いてMP5に装弾する。セフティはオンのまま。
「えぼし丸が欲しい皆さん!」
 連中が集まっていた付近にあった滑り台の影から若い男が現れた。
「こちらに集まってください」
 すると吸い寄せられるように少年少女が近寄っていく。
「みなさん、これが欲しいんですね?」
 男は右手を高く掲げた。何かをつまんでいる。もちろんえぼし丸のマスコットだ。ここからは確認できないが色は湘南カラーのはずだ。
 一同は頷いている。早くよこせと病的に叫んでいる者もいる。
「ですが今日は中身が入っていないんです」
 一同がざわめいた。
「今日は麻薬を販売できません」
 男は毅然とした声で言った。
 どういう事だ! と食らいつこうとした者がいたが軽くいなされた。
「どうしても必要なんですか? みなさん」
 男の問いに皆当たり前だと頷いた。これで…… 本人から麻薬の反応なり禁断症状が出れば、この街の法律では十分有罪だ。
 Goサインがかかった。
 茂みから飛び出す。数十人の警官が彼らを包囲した。
「警察だ、動くな!」
 ほぼ全員がライフルやショットガンを構えている。重武装過ぎると思うかもしれないが連中は皆麻薬中毒患者だ。油断は出来ない。
 突然の出来事に皆恐怖し立ちすくむだけだった。所詮はまだ子供だった。
「抵抗するな! 逃げられないぞ! 全員両手を地面に付けろ」
 皆がおずおずと従う中、さっきからわめいていたヤツは奇声をあげ警官に襲い掛かった。しかし相手は屈強なSWAT隊員だった。銃床で殴られ失神した。恐らく禁断症状を起こしているのだろう。
 里森公園。街の北に位置する大きな公園でその名の通り遊歩道と木々が並ぶのどかな広場だ。遊具は山の斜面を利用した大きな滑り台のみで昼間はのんびり散歩する人でにぎやいでいる。
 その市民の憩いの場が今はただならぬ緊張で震えている。
 俺は慎重に連中の輪の中に入り、震えながら4つんばいになっている少女に近づいた。
「署長、約束だ。少し彼女借りるぜ」
 SWATの隊長の横にエバンス署長も立っていた。彼は厳しい表情のまま頷いて他のやつらを連行し始めた。
 俺は足元の少女に極力優しい声で話しかけた。
「立って。ちょっと行こうか」
 俺の声を聞き彼女は顔を上げた。
 ショートカットの髪がゆれ、赤い縁のメガネの奥の瞳が見開かれ俺を見つめた。
「風見君……」
 俺は手を差し伸べた。ちゃんと笑ってやれているだろうか? 彼女は涙を流しながらこっちをただ見つめている。
「心配するな、俺は君の敵じゃない」
 彼女、米沢早苗は俺の手を掴んで立ち上がった。

「私が来るって知ってたのね……」
 米沢さんは俯いて俺の顔を見ずつぶやくように言った。
「まあね」
 ラーメン屋の情報にハッカーの物もあった。
 凄腕のハッカーの中で、この街に絡んでいそうな者。さすがに特定は出来なかったが怪しい者リストの中に興味深いヤツがいた。
 米沢勇人。大した犯罪を犯したわけではないが卒業した高校の成績データを全て消去。ついでに担任の研修旅行中の羽目を外した写真をネット上にばら撒いた…… と噂される男。
 全く持って小物と言っていいが、この卒業校というのが超一流コンピューター企業に何人も人材を送り込んでいる有名校だっただけに大騒ぎになった。コンピューターを管理しているのも一流のエンジニアだ。セキリュリティだって軍隊並らしい。そのガードを彼は一夜にして突破しイタズラして帰ったのだ。
 証拠も全く残らなかったらしい。米沢勇人の名が出たのは、そんな事をやるのは、否そんな事ができるのはあいつくらいだろう。その程度の理由だそうだ。
 それが米沢早苗の兄だった。
 考えてみて欲しい。いかに優秀なハッカーとはいえ書き込んだデータを逐一消すなんて事ができるだろうか。
 いつ書き込まれるかもわからずこの仕事をやるには24時間体制の監視が必要だ。少なくとも俺には方法がわからない。もし可能とするほどの凄腕のハッカーがいたとすれば、そいつは麻薬なんて危ない橋を渡らず天才コンピュータープログラマーとして巨万の富を築けるはずだ。
 ではいかにしてこの仕事を果たしたのか?
 簡単だ。書き込んだやつが消せばいい。
 瀬里奈はガラケー、従来型の携帯電話を使っていた。スマホは、いやパソコン関係は苦手なのだ。俺は確認をとった。他の仲間も全員苦手。ネットに書き込むなんてやり方がわからなかった。いつの時代の人間なのかね。
 それでは奴等はどうしたのか。代行を頼んだのだ。
 米沢早苗に。
 瀬里奈にとって腹を割って話せるのは彼女しかいなかった。米沢さんは兄譲りの技術で自分でやったのか、兄貴にやってもらったのかわからないが瀬里奈の告発を書き込み、すぐに消えるようにしておいたのだ。跡形も無く。
 何故そんな事をしたのか。
「麻薬目当てだね?」
 俺の問いに米沢さんは無言のままだった。
 彼女にこれをやらせたのは学園内の麻薬販売組織の仲間だ。情報が外に漏れないよう手を打ったのだ。
 報酬は麻薬だ。人を縛りつけ意のままに操るにはこれが一番効果的なのは言うまでもない。
 ではそいつは誰か?
 小森か? 会長か?
どちらでもない。
 米沢さんは俺の監視も命じられていた。
 有名人の俺が突然無理な理由で転入してくれば麻薬組織の奴等は当然自分たちを探りに来たと思うだろう。
 だから俺が瀬里奈一味と接触、北の倉庫が臭いと知った途端手を打った。刺客を放ち証拠を消したのだ。
 俺が瀬里奈と接触したり北の倉庫に行った事を知っているのは瀬里奈たち以外では米沢さんだけだ。俺のマンションに爆薬が仕掛けられたのも、あそこに俺が引っ越している事を彼女が報告したからだろう。
 俺の転校と同時に彼女を俺に接触させたヤツ。それが内通者だ。
 そんな事ができたのは…… 米沢さんの隣の席を空けておくことが出来た人物は。
 あの禿げた教師、担任の古谷しかいない。