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ろーたす・るとす
ろーたす・るとす
novelistID. 52985
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便利屋BIG-GUN2 ピース学園

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 5連発の回転弾倉を振り出し弾をこめて元に戻す。これだけで発射準備完了だ。後は引き金を引くだけで弾丸を発射できる。オート拳銃のように手動のセフティとかもない。
 非常に簡単な操作だ。リボルバーゆえ信頼性も高く頑丈。まさに初心者むきといえる銃だろう。
 とりあえず正しい構えを教え7m先の的を撃たせてみた。
 海城、新明はまあまあ。大岩とアスカは全く駄目。瀬里奈はうまかった。これも親父さんに習ったんだろう。俺達は同門の士という事になるのだろうか。
 きっちり1時間射撃練習をして、今日はお終いとガレージに出た。
 喧嘩の仕方も教えろと男共が言い出したので簡単な攻撃の裁き方を教えてやった。
 素人は大概まずパンチで攻撃してくる。しかもストレートかフックだ。これに対し腕で受けずに右パンチなら左に、左なら右に回りこむようにかわす。こうすると相手は次の攻撃がしにくくなる。しかも伸ばした腕を掴みやすく、ひねりあげて動きを封じ込めることもできる。
 手本を見せ、組になってやらせてみた。
 射撃よりはマシか…… 多少は喧嘩慣れしているようだ。
 瀬里奈はアスカと組んで独自に組み手をやっていた。
 アスカは瀬里奈と真逆で背が低く赤い癖毛で子供っぽい顔立ちをしている。同い年のはずだが何か姉妹のように見える。顔は全然似てないけどね。
 アスカの攻撃を軽く片手で裁き隙を見るやキックで1本とる。相手に対する反射神経も攻撃に転ずる判断もキックのしなやかさも、どれをとっても素人を越えていた。
 さすがは松岡の娘だ。
 一汗かいて解散前に各自顔を洗いにい行った時、アスカが瀬里奈の目を盗んで話しかけてきた。瀬里奈は大して堪えてない様だがこいつは結構バテバテで息を切らしていた。
 この娘は射撃、喧嘩、ルックス全てにおいて瀬里奈に及ばない。いやまあ瀬里奈のレベルが高すぎるので大概のヤツは及ばないんだけどね。
 だからなのか瀬里奈にぞっこんなようだ。女ってこういう関係あるよな。
 荒い息のまま赤毛の娘は因縁つけるように話しかけてきた。
「あんたさぁ、ねーさんの事どう思ってる?」
 ストレートな質問だ。こういう性格なのだろう。嫌いじゃない。
 こういう娘に対してはぐらかすのは無意味だ。
「女としてって事だな? 美人だと思うよ」
「それだけか?」
 アスカは不満そうに俺を覗き込んだ。
 それだけって…… 男が女に対して言うのにこれほどの賞賛があるだろうか。
 アスカは一端目を反らし持っていたポカリをグビグビと飲んでから言った。
「ここに来てやっとわかったよ。ねーさんは前からあんたを待ってたぜ?」
 はじめて興味を引く情報だ。
「どういう事だ」
「この店の名前BIG-GUNか。ニュースとかで名前が出るたび耳を傾けてたり。この近所に来るとこっちの方をじっと見つめてたり。ここにあんたがいるって知ってたんだろ」
 去年母親を亡くし父親に捨てられるように全寮制の学校に押し込まれ、居場所を無くし柄にも無く不良グループなんかに入った瀬里奈。どんな気持ちでBIG-GUNを見つめていたのか。
 あいつは言った。
 BIG-GUNは最後の希望だと。
「俺がこの街でバカやっている事は知っていたようだな」
「ねーさんは本当は真面目で優しい人なんだ。あたしらなんかといちゃいけない人なんだよ」
 わかってたのか。少し見直した。
「あんたに助けに来て欲しかったんだよ、きっと。なんで今まで来てくれなかったんだ」
 なんでも何も、松岡から電話が掛かってくるまで瀬里奈の事など頭の片隅にも無かった。
 なにしろ10年前、6歳のときに親に引き離されたんだぜ。覚えている瀬里奈の方がおかしい。あの時はそりゃ少しは寂しかった気がするが、3日もしたらすっかり忘れて一人で遊んでいた気がする。
 別れの時、あいつは泣いて「行きたくない、たすけて」と叫んだ。そして俺の名を呼んだ。
 あの時からあいつは何も変わっていないというのか?
 そんなバカな。俺は思わず笑ってしまった。
 女がそんなに女々しいわけないさ。
「あいつが泣いている時助けに来なかったなんて事に文句を言われても困る。俺はスーパーヒーローじゃないんだ。だが今は比較的側にいて、あいつを守っている。それでいいだろ」
 アスカはまだ不満そうだったが瀬里奈がやってきたので口をつぐんだ。
 瀬里奈はアスカの様子が変な事に気づいたようで話しかけてきた。
「何を話してた?」
 アスカは詰まったので俺が答えた。
「喧嘩の仕方さ。他に何かあるか?」
 瀬里奈は疑わしげに俺を見つめた。冷たいが澄んだ瞳。
「先に乗ってるよ」
 アスカはランクルに乗り込んだ。他の連中も皆続々乗り込んでいく。
 瀬里奈は最後に残って追求するつもりだったのだろう。そうさせないため俺から話しかけた。
「あいつには俺に近づくなって言わないのか?」
 瀬里奈は少し脹れた。
「アスカはあんたなんかにちょっかい出さないから平気」
 そりゃそうか。
 瀬里奈は少しため息をついてから口を開いた。
「こんな訓練なんかさせてどうするんだ。こいつらには戦わせないんだろ」
 声を小さくして顔を近寄せて聞いてきた。なんとなく、いい匂いがする。ふむ…… やっぱ綺麗ですね、あなた。
「ただ放っておいたら連中暴走しかねないだろ。訓練していれば上達するまで奴らも直接行動しようなんて思わない。その間に俺達が事件を解決する。なに、そんなに時間は掛からない」
 俺はさらに一言告げた。
「そうしたら俺はすぐに学校からおさらばだ」
 瀬里奈ははっとして目を上げた。が、すぐに目をそらし「そうか」とつぶやいた。
 そんな顔するな。昔は泣き虫だったが暗い顔なんてしなかった。泣いているか笑っているかどちらかだった。
 明日になったらこいつはどんな顔をしているだろう。
 もっと暗い顔をしているか、俺を恨んでいるか。
 まぁ仕方ない。俺はただの悪党だからな。
「乗れよ、俺は今夜忙しいんだ」
 促され瀬里奈は車に乗った。
 俺も運転席に滑り込むと後ろから冷やかす声が沸いた。
「二人で何話してたんだよ」
 内緒話が多いからこんな事ばっか聞かれる。
「将来についてさ」
 と軽くいなして車を発進させる。納得したような、さらに突っ込みたいような笑いが起きた。
 不良もクラスメートもみんな同じだ。当たり前だ。こいつら皆普通の高校生なんだから。
 こいつらに関して俺が語る事はもう何もない。
 だが一つだけ言っておきたい事がある。
 こいつらといえど普通に生き暮らしてきた人生がある。まだ20年にも満たないが笑ったり泣いたり悩んだりしながら生きてきた。今まで生きてきた時間よりずっと長い未来があった。
 俺にとっては通りすがりの人間達だが、それだけは間違いない。それを確認しておきたかった。

 月が出ている。明るい月だ。
 何もしないでじっとしているのは嫌いだった。
 突然自分が何をしているのか、なんてどうでもいい事を考え始めてしまう。
 俺は今何をしているのか。
 これが瀬里奈を守る事になるのか、少々自信は無い。だが動き出してしまった。
 俺はただ茂みに隠れ草の匂いを嗅いでいるだけだ。