便利屋BIG-GUN2 ピース学園
「そうか…… 辛い思いさせたな……」
マスターは泣きながら首を振った。
「いいんだ。だがせめて今夜一晩、娘と思ってこの娘と話をさせてくれ……」
タオルで顔を覆いながら懇願する。答えは勿論。
「だめだ、もう帰る。地下の荷物運ぶの手伝え」
「ひどい…… 風見君」
うう、と崩れるマスター。
「ケンちゃん……」
ジュンが心配そうに口を開いた。
「そういうことなら話し相手くらいなってもいいけど?」
意外とお人よしなんだな。その半分くらい俺にも優しくしてくれ。
俺は声のトーンを元に戻して話した。
「ヒント。お前アングロサクソン、こいつ東洋人。この髭面、女が近寄るはずが無い。つまり独身」
ジュンはまだキョトンとしている。
俺はまだ泣いているマスターに言った。
「さ、騙された振りしてやってるうちに荷物運ぼうな…… お互いのために……」
「うん」
マスターは立ち上がって地下へ消えて行った。
このロリコン親父め。何が話し相手だ。おまえにゃ危なくてメス猫も預けられねーよ。
帰り道は足取り重かった。何しろ荷物が重い。
小型軽量を持って軽快に走る106であるから重い物を積むと覿面に影響が出る。まぁうちまでの我慢だ、がんばれ106。
「お前食いすぎだよ。何品食ったんだ」
お会計を済ませて俺は軽いめまいを感じた。育ち盛りの男子ならともかく、こいつバカ食いしやがって。普通女の子は男の前じゃ恥ずかしがって小食にするもんだぞ。しかしこの女は満腹満腹とニコニコしてやがる。
「腹でてもしらねーぞ」
「えー、寮のジムで運動してるから大丈夫だよ」
その甘えが将来の涙を生むことを女は何故学ばないんだ。
「ジムといえば高等部の小森教官って凄いよね。プロレスラー並の体格だし運動神経」
体育教官も女子寮のジムを利用するのか。役得じゃねーか。
「喧嘩したらケンちゃんといい勝負なんじゃない?」
俺と体育教官が互角だと? バカいうな。いや……
俺はあの倉庫での刺客を思い出した。あいつが小森教官としたら? 無くは無い。あいつは何故か俺に敵意むきだしだ。
「お前高等部の教官まで観察してるのか?」
「べつに? 学校の裏HP見てたら覚えちゃっただけだよ。ケンちゃん1年B組だっけ。担任古谷先生だよね」
あの禿そんな名前だったな。
「意外ね、ケンちゃん車好きでしょ? あの先生凄い車持ってるのに興味ないんだ」
「そうか? 気づかなかったな」
ジュンは何が楽しいのかクスクス笑った。
「アウディとかいう高い車乗ってるらしいよ? そんなの乗れるほど給料もらってるのかってHP炎上してた」
こいつ…… 意外と情報持ってるなぁ。俺もネットくらいちゃんと見ておかないといかんな。
学校前でジュンをおろした。これ以上連れ回すわけにもいくまい。やつは「ごちー」とにこやかに手を振るとタッタカ寮に走り去っていった。少しは名残惜しそうに見送って欲しい。
嘘でも!
やれやれ…… とプジョーをマンションに向ける。
カーステレオから三郎の声が今日も流れていた。
コーナーが終わり三ツ沢アナが締めのコメントを語っていた。
「明日はいい天気です。夜、里森公園にでも散歩に行きたいですね。滑り台に乗ったら楽しいでしょうね、えぼし丸君と一緒に」
翌日、米沢さんは昨日よりは明るい顔で「瀬里奈がごめんって言ってくれた」と教えてくれた。教室の奥に目を移すと…… おや今日も登校している。
あいつも意外と素直だな。こっちを見ていたが俺と目が合ったらそっぽ向きやがった。この辺は素直では無い。
クスっと米沢さんが笑った。
「瀬里奈、意地張っちゃって。風見君が転校してきてから急に学校来るようになったくせに」
そうなのか? ま、たしかに転校初日はあいついなかったな。
米沢さんご機嫌で話しやすそうだったので俺は切り出した。
「明日休みだし、今夜飯食いに行かない?」
突然のデートのお誘いに、米沢さんは固まった。
数秒後硬直が解けるとひどく残念そうに首を振った。
「ごめん、今夜用事があるの。本当にごめん、今度また誘って」
そう言うと小走りに出て行った。
やっぱり、か。
「かざみー」
近くの席の青木が振り返った。
「んなこと教室で言ったって、はい喜んでとは答えられねーだろうが。ギャラリー多すぎ」
ふむ。クラスの大半がこっちを見てニヤニヤあるいはクスクス笑ってやがる。
瀬里奈は…… わっ、睨んでやがる。
お前には毎晩メールしてやってるだろ。たまには返せ。
放課後、バスケの練習も終わりちょいと所用も済ませ俺は一端会社に戻りランドクルーザーに乗り換えマンションに戻った。
瀬里奈一味は既に集まっていた。一同やや緊張の面持ちだ。これから怪しげな訓練を受けるとなれば無理も無い。
指定どおり動きやすい服を着ていた。他の奴はどうでもいいが瀬里奈は地味なTシャツに膝までのジーンズだった。靴は赤のコンバースか。俺も持ってる。
それにしても…… やはり見事なプロポーションだ。胸はさほど大きくないが腰から太ももに流れるラインは絶品。
「何見てんだよ」
俺の視線に気づき瀬里奈は睨んできた。正直に答えると揉めそうなので俺は「いくぞ」と誤魔化し車に向かった。
ランクルに全員押し込み、我が社を目指す。
ピース学園は街の東南に我が社は街の北に位置する。車で走れば20分くらいか。北へ走り踏切を渡って国道を右折。マツキヨを左折してしばらく走ると我が町内だ。
やや奥まり人に電話で場所を説明するのが厄介な場所に我等が便利屋BIG-GUNは聳え立つ。
鉄筋3階建ての自社ビル。地下には小さいが射撃場もあるので訓練には絶好の場だ。
ガレージも地下だ。車を降りると瀬里奈は感慨深げに社内を見渡していた。
「なんだ?」
声をかけると瀬里奈は驚いて我に返り「なんでもない」と答えた。アスカが何か言いたげだったが時間が無い。放っておいた。
射撃場に入り耳栓になるヘッドセットを全員に配った。
「これから早速射撃訓練を行う。銃は簡単に人を殺せる道具だ。従って間違って使えば殺したくない奴を殺してしまったり自分を殺しちまうこともある。人に銃口を絶対に向けるな。特に俺には向けるな。即座に打ち返して射殺してしまうぞ。悪いが俺はそう訓練されている」
俺はそう説明するとチーフを各自に渡した。何の反論も無かったのは俺が嘘をついているわけではない事をこいつらなりに感じたからだろう。
今日はチーフだけでいいだろう。さすがジムわずか1日で見事に仕上がっていた。磨きまでしてくれたようで新品とは言わないまでも昨日見たガラクタとは思えない仕上がりだった。
全員俺が見るのは厄介なので見張り的にジムにも付き合ってもらうことにした。ジムの長身と恵まれた肉体にみな驚きを隠せなかった。アスカなんかちょっと見とれていた。惚れるなよ、おまえにゃもったいない男だ。
チーフスペシャルはこの間言ったように護身用の小型リボルバーだ。
2インチの銃身に後ろが丸く切り取られたグリップを持ち手の平サイズで小型軽量。持ち歩くには最適だ。
作品名:便利屋BIG-GUN2 ピース学園 作家名:ろーたす・るとす