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ろーたす・るとす
ろーたす・るとす
novelistID. 52985
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便利屋BIG-GUN2 ピース学園

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知らない女だった。年の頃は20代後半、いや30いってるか? しかし整った顔立ちでプロポーションも中々。何より声が魅力的だった。ん? この声は聞き覚えがある。
「私FMシーの三ツ沢と申します。昨日、同僚の北下三郎さんにお世話になりました」
 いえ同僚でなく上司です。というのは大人気なかったので止めとくとして…… FMシーの三ツ沢だって? 地元FMの人気DJじゃないか。森野が最初に食いついた。
「三ツ沢さんですか?! いつも聞いてます! 彼の藤代さんもお世話になってます!」
 横から突然飛び出してきたので三ツ沢さん少し面食らったが「ありがとう」と返してから一言付け加えた。
「藤代君? 彼、若い女の子に大勢声かけてるから気をつけてね」
 とたん森野のテンションが下がった。気の毒なくらい落ち込んだ。なんてわかりやすい奴なんだ。
 くじけるな森野、明日になればまたいい事もあるさ。
 だから明日までそのまま大人しくしててくれるか?
「北下さんの事で少しお話がしたいんですけど、いいかしら?」
 俺がこの爆弾騒ぎの中心人物とは知らないようである。FM局の人がそれでいいのだろうか。しかし俺にとっては現状を打破する千載一遇の好機である。
「ええ、もちろんです。ここは騒がしい。移動しますか」
 近くにはいくらでも洒落た喫茶店がある。俺達は揉めている女共を置き去りにして三ツ沢さんとその場を後にした。

 取材場所は喫茶店ではなく彼女の車の中となった。クリーム色のココアという軽自動車だ。丸みを帯びた可愛らしい車で女性に人気がある。
「昨日北下さんに恋愛相談のゲストに出演していただいたんです。聞いていただけました?」
 いえ、夕べは殺し合いで忙しかったもんで。
 首を振ると彼女は柔らかく続けた。
「残念です。今夜もオンエアしますから是非聞いてあげてください」
 しかし…… 三郎が恋愛相談だと? ジムならともかくあいつが人の相談ごとに耳を傾けるとは思えない。
「最初は冷たい人かと思ったんですが…… そうじゃないんですよ」
 またか…… 三郎に落とされた女はもう見飽きた。
「なんであいつにラジオ出演の話なんか?」
 三ツ沢さんは少し恥ずかしげに笑うと「内緒にしてくれますか」と言って話し出した。
「私が誘ったんです。喫茶店でたまたま出会って」
 驚いたことなのだが三ツ沢さんは6年も前に結婚していた。俺もたまにFMシーは聞くが全然知らなかった。多くのリスナーがそうだろう。
 しかし子供はまだいない。
 作らなかったわけではない。純粋に出来ないのだという。
 不妊治療にも通っているが効果はなく周りからも口を出される事も多々あった。
 特に夫方の両親は催促が次第に嫌味に変化していった。
 ストレスは言うまでもない。離婚問題にまで発展したそうだ。
 昼、喫茶店で食事していた折テレビである芸能人が出産の話をしていた。満面の笑みを浮かべ彼女はこう言ったそうだ。
「出産できてやっと一人前になれた気分です」
 その言葉につい彼女は切れてしまったそうだ。
「じゃあ子供の出来ない私は半人前なの?!」
 店内の客は一瞬振り返ったが、すぐに聞かなかった振りをした。
 たった一人語りかけてきたのはカウンターの隣の席にいた三郎だったそうだ。
「子供を生んで母親になるってのは大変なことだ。それを成し遂げた女性は一人前と認めていいんじゃないか?」
 まさかどう見ても10代の若造に反論されるとは思わなかった。彼女は怒り三郎につっかかった。
「じゃあ私達子供が欲しくても授からない女達は? 一生半人前のできそこないと罵られなければならないの? そういう人間がいることを考えもしないでテレビで嬉しそうにこんな事を自慢している事は罪じゃないの」
 興奮する三ツ沢さんに三郎は冷たく言ったそうだ。
「毎年何千人という人が交通事故で亡くなっている。しかしテレビやラジオでは連日車のCMは流すし、街では楽しげに車談義をする人は大勢いる。そいつらもデリカシーのない連中だと思うか?」
 正論をつかれ一瞬怯むと三郎は彼女の顔も見ず続けたそうだ。
「子供が出来ない寂しさや悔しさは理解できる。だからと言って人の幸福を批判するのは間違っている。子供を生んで母親になるというのは人が一人前になるための手段の一つでしかない。仕事でも人間性でも人が一人前の立派な人間になる方法はいくらでもあるはずだ。今のあなたは自分の不幸に甘えて人の幸せを妬んでいるだけの冷たい半人前の人間だ。」
 言うだけ言って席を立とうとした三郎に名を聞くと「ただの生意気なガキだ」としか答えなかったらしい。
 やつの名と連絡先は店のマスターが教えてくれたらしい。
とするとその店って駅前の「喫茶・早い! 安い! だけ」か?
二人ともなんであんな店に。駄菓子屋の方がよほどうまい物売っているぞ。
「頭を冷やしてみると確かに彼の言うとおりだなって。それから思いつめないでいろんな方角から物を見られるようになりました。両親も早く孫を見たいだけなんだって…… それで私が救ってもらったようにより多くの人を彼に助けてもらおうと思ってずっとお願いしてたんです」
 三ツ沢さんは懐かしいような…… 恥ずかしそうな…… そんな表情だった。
「あいつ、よく承諾しましたね。あいつの性格からしてずっと無視を決め込むかと思いますが」
 三ツ沢さんは楽しげに笑った。
「彼は冷たく見えてとても優しい人なんですよ。きっと悩んでる人を助けたくなったんじゃないですか?」
 俺は苦笑した。
「まるごと同意はできませんが…… ただはっきりしている事は」
 俺も三郎のように彼女から目を反らして言った。
「あいつが優しいと感じたのはあなたに人をそう思える心があったからだと思います」
 今度は三ツ沢さんが苦笑した。
「あなたも北下さんみたいにびっくりするほど大人っぽいことを言うんですね」
 俺は照れ隠しに笑い続けた。
「俺のは師匠の受け売りです。幸せを感じられる人間だけが幸せになれる…… 確かそんな事を教えてくれました」
 三ツ沢さんは言葉を租借するように2回頷いた。
「いい言葉ですね。素敵なお師匠さんです」
 俺は頷いて切り出した。
「ところでさっき話していた藤代さんの事なんですけど……」

 三ツ沢さんとの会話を終え俺は車を降りた。走っていたわけじゃないからマンションからさほど離れていない。
 俺はジュンに電話をかけた。
「まだ新聞部の森野の側にいるか? 独占インタビューさせてやるから電話番号教えろと伝えろ」
 ヤツは何か誤解したのか少々ごねたが伝言してくれた。

 俺の部屋に仕掛けられていたのはちょっとした火炎瓶程度の爆発物だった。気がつかずドアを開けていたとしてもやけどで済んだだろう。
 仕掛けそのものはキチンとしたものだった。けして学生のいたずらでは無い。であるなら何故肝心の爆発物は粗末なものだったのだろう。
 考えられるのは「警告」。
 俺にとっとと消えろって事だろう。
 だが誰が何故?
 俺が今ここに住んでいてやばい事に首を突っ込んでいるなど知っている人間は何人もいない。
 どういう事なんだろう。
 夜も更けカーラジオから三郎の声が聞こえてきた。