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ろーたす・るとす
ろーたす・るとす
novelistID. 52985
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便利屋BIG-GUN 1 ルガーP08

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 その時ジュンが動いた。さっき撃ち落としたコーツの銃に取り付き構えた。
 よせ、撃つな。
 俺は右手でコーツの手首を取ると捻りあげた。簡単なサブミッションだがど素人には効果がある。
 コーツは悲鳴を上げて力を弱めた。俺は何とか奴を跳ね飛ばしジュンが撃たない様、奴との間に割って入った。
 震えを止める方法はある。簡単だ。
 俺はガタつく右手をなんとかショルダーホルスターに持っていった。
 そこには俺がもっとも使い込んだ銃がある。
 親父が俺にくれた最初の銃。最初のおもちゃ。
 気合一線、銃を抜く。
 冷たい鋼鉄の感触。慣れ親しんだ重さ。
 細かいチェッカーの入った木製のグリップは手の平に吸い付くようになじむ。
 上部の丸いレバーに指をかけ引っ張る。滑らかにスライドは後退し半分に折れた。この銃の最大の特徴「トグルジョイント」だ。指を離すと尺取虫状に折れていたトグルジョイントは前進し弾倉内の弾丸をくわえ込み薬室に収めてチンっという金属音と共に元の位置に戻った。
 発射準備が整った。世界一優美な人殺しの道具。
 ルガーP−08。
 俺がジュンの父親を殺した銃の。
 俺の震えは完全に止まっていた。
「この銃でお前の商売相手も殺した」
「ローランドか?!」
 ジュンがびくりとしたのが背中越しに感じられた。
「お前の名前を公表しなかったのは「仕事」の邪魔をされたくなかったからだ」
 声も正しく発声できるようになっていた。
「お前まで公開したら警察やらマスコミやらが押しかけて「仕事」どころじゃなくなるからな」
 俺は丸腰で床に腰を落とした中年政治家にスマートな拳銃を突きつけた。
 今度はコーツが恐怖に震える番だった。
「お前は…… いったい何者なんだ?!」
 俺がなんと答えるかジュンはわかっていただろう。今あいつはどんな顔で俺を見ているんだろう。奴の手の銃は今度は俺に向けられるのかもな。
 まあいいさ。
 俺ははっきりと答えた。
「ただの悪党だ」
 ルガーP−08が唸った。弾丸は音速を超えて目標を貫き、トグルジョイントがはじき出した薬きょうは弧を描いて俺の頭上を越え、俺とジュンの間に落ちた。
 
エピローグ

「ねぇねぇ、その後ジュンちゃんとはどうなの?」
暇で巨乳な受付嬢は俺の会社の事務所でゲームしながら気だるそうに話しかけてきた。
「どうも?」
「なにやってんのよー、あんな子なかなかいないわよ?ほい、ペイント」
「確かに…… ほい、罠仕掛けた」
 俺も付き合ってゲームしているので人のことは言えない。つまみのみこしやのたこ焼きがほんのりといい香りを漂わせている。
 コールマンは息がありシェリフに逮捕され色々とぶちまけた。俺達の事もある事ない事わめいたようだが我々はガード対象者を救出に行っただけなので特にお咎め無しだ。警察への報告が遅れたのについてはこっぴどく怒鳴られたがガード対象者を誘拐されたとあっては会社の信用問題だったからという事でごまかした。
 巨悪と街の人気者の言う事である。
 どっちを世間が信用するかは言うまでもない。
 市長は再選し人格改善セミナーの規制条例作成に着手した。自分に火の粉が降りかかると本当に政治家とはすばやく動くものだ。恐らく国会も似た法律を作るだろう。
 事情をどこまで知っているのか知らないが鍵さんからお礼の電話もあった。
 コールマンから取引を持ちかけられたジュンの父ローランド氏は裏金作りの為快く受け入れ多数の武器を売り渡したが途中で事の重大さに気づき恐ろしくなり撤退を申し出た。
 コーツは口封じのためローランドの抹殺を指示。用心深かったローランドは取引の現場に社員を派遣した。問答無用で発砲してきたコールマンの部下達により、この憐れな社員は人違いで射殺されてしまった。
 ローランドは奴らの出方を見るためとりあえず社員を送り込んだのか? いや何かあったら身代わりにするつもりだったのは明らかだ。なにしろローランドは自分の帽子とコートをプレゼントし着ていくようにとまで言っていたからだ。
 ローランドは自分が殺されたら秘密を他者が暴露すると例のファイルの存在をほのめかし一時コーツらの攻撃を止めさせた。それでもこのままではいつ殺されるかわかったものではない。そう思ったローランドは取引の再開を申し出またこの街を訪れた。
 そして俺に撃たれた。
 依頼は「彼氏」の仇をとるだった。自らの陰謀、保身のため弱者を手駒にし切り捨てた人間たち。ローランドはまさに仇の一人だった。
 俺達はローランドを殺せばファイルを持った人物は当然コールマン一味に消されたと勘違いしファイルを公開すると踏んでいた。コールマンの陰謀を暴くにはそれが一番手っ取り早いと考えていた。一石二鳥だ。恥ずかしい話、黒幕であるコーツの存在はこの時点では知らなかったのだ。
 しかしファイルは偶然ジュンが持ち出してしまったため公開されなかった。俺達は次の手を考えていたのだが、そこにローランドの娘がこの街に来ているという通報を受けた。もちろん早安の親父からだ。あの日俺は念のため探りを入れようとジュンに接触した。
 そしてローランドのファイルから黒幕がコーツであることを知ったのだ。
これが今回の事件の真相だ。
 俺が初めてジュンを見たのはラーメン屋がくれた資料の上だ。なんて事のない隠し撮りの写真とプロフィール。それが本当の出会いだった。
「ジュンちゃん、どうしてるかね。あ、はまった。爆弾置く」
 アリスの話し方はいつもと違って感情がこもっていなかった。
「俺の知ったことじゃないさ。ほい、竜撃撃つ」
 ああ、さっきから語尾につく罠だの爆弾だのの不穏な言葉はゲーム内のやり取りだから気にしないでくれ。
 俺は悪党を殺した。それは間違いない。
 しかしそれで何になったのだろう。
 何を得て何を無くしたのだろう。
 誰かを助けられたのだろうか。
 ルガーP−08はピカピカに磨きぬいてまた武器庫のケースの中だ。
 あの銃は悪ではない。
 少なくとも今まで俺を守ってくれている。
 誰も殺したりはしない。
 殺したのはこの俺だ。
 事務所の棚に写真が飾られている。
 俺達BIG−GUNとジュンが写っているあの写真だ。みんな笑っている。
「あ、やべ落ちた」
「へたくそ」
 落ちたとはミスの事で3ミスでゲームオーバーだ。くそ、この巨乳め。自慢するだけあってやけにうまい。
「やほー、ひま? 暇そうね」
 突然涼風のような声が事務所に通り抜けた。
 ジュンだった。
 今日は青い長袖のブラウスで下はやっぱりミニスカート。ショートブーツも相変わらずだった。長い髪も日差しのような笑顔も変わりない。
「また家出してきちゃった。宿貸して」
「ここは便利屋で宿屋じゃないぞ」
「またまたー、泊めてお風呂とか覗きたいんでしょー」
 のぞいていいならいくらでも泊めてやるが。
ジュンはアリスにこんにちはーなどと声をかけながらパタパタと店に入ってきた。
「お邪魔そうだから、一人で捕獲しとくわよ」
 ゲーム機から目を離さずアリスおねーさんは2階へ上がって行った。ゲームを中断しないところはさすがおたくである。レアアイテムでるといいな。
「あ、これ」
 ジュンが写真に気がついた。