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ろーたす・るとす
ろーたす・るとす
novelistID. 52985
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便利屋BIG-GUN 1 ルガーP08

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「多少は政治に知識があるなら私の得票数がどれほどの物だかは知っているだろう。過去10回の選挙で常に全国トップクラスだ。どんな逆風が吹く選挙でも落選したことは一度もない。しかし私には大臣の椅子など一度も回ってきたことなどない。何故だかわかるか?!」
「あんたの親父さんが一度離党して政党を立ち上げた事があるからだ」
 ヒガシ・コーツはひいじいさんの代からの大物政治家で、代々与党真自党の議員だった。しかしヒガシの父アンディは権力闘争のためほんの一期だけ離党、独立して政党を立ち上げた。独立と言っても結局連立政権となり、すぐに帰党する事になったのだが真自党本部は許さなかった。党内の重要な役職には就けるものの名誉職であり、首相はおろか大臣の椅子もまわすことはなかった。この飼い殺しは息子の代にまで及び、父の地盤を引き継いだヒガシまで冷や飯を食わされているのである。
「奴らに教えてやりたかった。自分達の椅子がどんなに脆い地盤の上に立っているのか。数人の下らん奴らをたきつけるだけで自分の地位は崩れてしまうという事を。その手始め、いや実験にはこの街は最適だった。市長の支持率は高く治安も悪くない。それがごく一部の人間の馬鹿騒ぎで崩れ市長の首も飛ぶとなれば、いかに連中が無能であっても気づく。自分が砂上の楼閣の上で王様気取りになっているという事を」
 興奮するコーツと裏腹に俺は冷たく言った。
「そんなガキみたいな計画のために…… 何人死んだ」
 何人泣いた。奴の腕の中のジュンと目が合った。こんな状況でも涙を必死にこらえている。涙は恐怖のためか、それとも。
「殺したのは大半お前さ」
 俺の殺気溢れる声に動じずコーツは言い返した。
「お前がちょっかいを出さなければほとんどの奴は死ななかったし、この娘もこんな目にはあわなかったろう」
 俺は思わず笑ってしまった。確かにその通りだ。さすが大物政治家。口では負けはしない。
「私にも質問がある」
 俺から一本取ったので自信を取り戻したのだろう。国会の質問に立っているときのように胸を張って威厳を誇示しながらしゃべりだした。実際には女の子を人質に取っている外道なんだが。
「何故私の名前は公表しなかった。ローランドのファイルに当然私の名前があったはずだが」
 聞かなくてもいい事を。
「私の名前を見て利用できると思ったか。コールマンのような小物はともかく私なら脅せばいくらでも金が出ると思ったか」
 ふん、俗物はみんな他人も利でのみ動くと思ってやがる。俺は嘲ってやろうかと口を開いたのだが……
「金なら…… もう……もらっている……」
 言葉がうまく出せなくなっていた。
「なに?」
 くそ…… やっぱり、こんな時でも…… 始まるのか。
 俺の弱点、病気、いや良心なのかもしれない。
 またジュンと目を合わせた。エメラルドの瞳が大きく見開かれている。俺の異変に気がついているようだ。
 真実にもすぐ気づくだろう。こいつなら。
「20数年…… かかって…… やっと彼氏ができた…… 女がいてな……」
「な? なんだ…… きさま」
 コーツも気がついた。
「俺は…… そいつを助けに来たんじゃ…… ない。…… お前を…… 殺しに…… 来た」

「勝負はあたしの勝ちね」
 唐突な発言に俺はピンと来なかった。俺は話のネタ的にダービーと有馬記念くらいしかギャンブルはやらないし、まして知り合いと賭け事はしない。
「できたわよ、あたし」
 誇らしげに胸を張る。張らなくても十分目立つ胸だが。
「レアな武器か防具か?」
「彼氏よ彼氏」
「嘘だ」と即座に否定する前に奴は懐のスマホを引き抜いて俺にかざした。世が世なら凄腕のガンマンになれたかもしれない。
 スマホの待機画面は純朴そうな青年だった。
 少々頼りなさ気に見えるが人懐っこい笑顔が印象的だった。
「免許の手続きに来た時、声をかけられたのよ」
 女はまた胸を張った。そりゃ話しかけるだろうよ、あんた受付嬢だろ。
 その時俺は女の妄想と思ってスルーしていた。
 しかし女は浮き浮き顔で話を続けた。
「今度デートなのよ、何かプレゼントしたいんだけど何がいいかな」
 まだ妄想が続いているのかと思い「はちみつでもあげれば」と言ったらボールペンを投げつけられた。暴力警官め。
「そいつは車は持っているのか」
「ちっちゃいけどね」
 ちっちゃい車をばかにするな。俺のもかなり小さい。
「キーホルダーとかどうだ。車のメーカーのエンブレム付きのやつ。彼女にもらった物を肌身離さず持ってられるってのは嬉しいもんだぞ」
「いいわねぇ、それ」
 女は「はわぁぁぁ」と妄想の世界に行ってしまったので俺はその隙に逃げた。
 数週間後、女は打って変わってため息をついていた。無視して通り過ぎようとしたが首根っこを掴まれた。
「彼が手も握ってくれないのよ」
 彼氏じゃないんじゃないか? と振り切ろうとしたが涙目で相談に乗れと喚くので付き合ってやった。そういうのは三郎の分野なんだが。
「手を握りたいならアンタから握ればいいじゃないか」
「そんな事して嫌われない?」
 見た事も無いしおらしい表情だった。ふむ…… 本気なのか。
「本当にそいつが好きでの事なら大丈夫だ」
 数日後にこやかに腕を組んだデート写真を見せ付けられた。
 それから週末の度、ネズミマーク入りのペナントやらタワーの置物だの俺の部屋にいらないものが増えた。デートの土産だそうだ。
 はいはい、もういいよ。楽しくやってくれ。
 しかし彼女の楽しい時は長くは続かなかった。
 何週間か後、俺はニュースで「彼氏」が殺害された事を知った。
 数日後ある店に呼び出された。彼女が「客」として主人から紹介された。
「その日」彼はデートに遅れる事を連絡してきたそうだ。
 社長に大事な取引を任された。今日は遅くなると電話して来た。申し訳なさそうだったが期待していると言ってもらったと、彼は興奮気味だった。
 そして取引に出向き彼は帰ってこなかった。
 何者かに銃撃され即死したそうだ。
 警察は通り魔、強盗の線で捜査を続けていたが何故か圧力がかかり進展していない。
 淡々と語る女の表情は凍り付いていた。
 うつろな目つき、青ざめた頬。
この女がそういう表情をするのを見たのは初めてだが、こういう語り方をする「客」はうちでは珍しくない。
「それで俺にどうしろと、慰めて欲しいのか?」
 女は冷たく言った。
「仇をとって」

「そんなバカな」
 コーツはわめいた。
「そんなバカな女のちっぽけな恨みで私を殺しにきたのか!」
 俺は笑った。
「…… そう…… さ。俺は…… そういう…… バカな男さ」
 俺の全身が震えていた。
 いつもそうだった。頭の中は冷静であるのに体だけは「恐怖」で打ち震える。
「仕事」の直前は。
 震えのあまりグロックが手から滑り落ちた。足の長い絨毯の上にゴトリと落ちる。
 コーツはジュンを放り出してグロックに飛びついた。震える足でなんとか銃を蹴り飛ばす。コーツは今度は俺の脚にしがみついてきた。通常ならそんな真似はさせないんだが、震えは俺の自由を大いに奪っていた。バランスを崩して組み伏せられた。奴は俺の胸のナイフに気づいた。奪い取ろうと掴みかかる。