便利屋BIG-GUN 1 ルガーP08
街の北部、緑が多々残る丘陵地帯に今回の黒幕の隠れ家…… まあ別荘だな、はあった。名義はベイファンの鈴木同志。2階建て、庭、家共にかなりでかい。まさに豪邸。三郎が探ったら奥さんあっさり場所を教えてくれた。
ラーメン屋からの情報で家の大体の間取りや、普段いる人間たちも把握している。ボディーガード代わりに例のセミナーの若い奴らが10人ほどが最近常駐しておりコールマンもたまに顔を出すと聞いている。
そして何と言っても怪しげな中年男が入り浸っているというのが決め手だった。
あいつ、震える殺し屋のことだ。
あたりはもう暗くなっていて視界は悪くなっていた。加えてたったいま三郎がスモークグレネードをぶちこんだので肉眼ではしばらく何も見えない。俺達は赤外線暗視鏡を装備していた。スモークグレネードは煙を吐くだけの代物だ。ジュンが巻き込まれても問題はない。まぁ文句は言うだろうがな。
俺は戦闘服に着替えていた。ガンベルトには拳銃、スタングレネード3つ、サブマシンガン予備弾倉3をつけてサスペンダーで吊る。サスペンダーにはコンバットナイフも差してある。
拳銃はベレッタM84では心細いため世界最高のコンバットオート「グロック17」を選んだ。
20世紀の後半に発表された野心作で発表後の拳銃達に多大な影響を与えた。17連発という多弾装。ヘキサゴナルプロフィールといわれるパワーロスの少ないライフリング。セーフシステムと呼ばれる他に類を見ない機構。そして何より特徴的なのはフレームがポリマー樹脂製ということだろう。
ベレッタと比較すると無骨極まりない野暮ったい銃だが9mmパラベラム弾を使用するこいつは威力的にも頼れる奴だ。
とはいえこいつは予備兵器でメインウェポンはさっきも使ったH&K MP5。今回はフルサイズでサイレンサー付のSD6タイプを使用する。
最後にショルダーホルスターにグロックの予備弾倉とお守り代わりの拳銃をもう一丁吊るしておいた。
さて行くか。無線で相棒に呼びかける。
「三郎、いくぜ」
「おう」
大きく息を吸って、吐き走り出す。赤外線スコープには室内で右往左往する人影が映し出されている。赤外線を映す暗視鏡なので壁も透けて熱を発生している人影が赤く動いて見えるのだ。そのうちのどれがジュンなのか、ま接近すれば小さいからわかるだろう。俺と反対側、裏口のほうへ走る影が見えた。三郎だろう。裏は入り口が少ない。俺が先に突入したほうが奴は入りやすいだろう。俺は庭へまわり人影の少ない窓を撃った。サイレンサーで発射音はかき消されている。俺の位置はわかるまい。煙幕の中やつらは窓ガラスが割れた音に引き寄せられ部屋に入ってきた。3人入ってきたのを確認して部屋の中にスタングレネードを放り込んだ。
閃光と大音響がとどろく。
殺傷力はないがまともに食らった奴らは悶絶して倒れた。目はくらみ鼓膜もやられて失神している。当分行動不能だ。
残っていた連中は二手に分かれた。しぐさからして皆拳銃を抜いたようだ。廊下から部屋に向かう者、それから庭から向かおうと外へ飛び出してきた二人。
俺はMP5をフルオートに切り替え腰だめでなぎ払うように発射した。二人の脚に命中しうつぶせに倒した。訓練された者ならその状態でも反撃できただろう。だがこいつらは素人だった。何が起きたか把握できずパニック状態のようだ。
銃を乱射されたら危ないのですばやく接近し二人とも蹴りを入れて失神させる。その時のうめき声に聞き覚えがあったので暗視鏡をずらして顔を確認した。
こいつ例の73メガネじゃないか。
約束通り、用ができたからこっちから来てやったぜ。
MP5の弾倉をチェンジ、俺は自称友人にそれ以上目もくれずやつらが出てきた窓から室内に侵入した。
裏口のほうから三郎が侵入してくる。それも知らず臆病者一人が裏口へ逃げていった。一瞬で打ち倒された。殺してはいないだろう。殺さなくていいやつは殺さないのが俺達の流儀だ。
「ターゲットは上だろう」
三郎の声が聞こえた。
振り仰ぐと2階に人影が二つ。と、動いてるのがひとつ。流石に目が速い。
さっきも言ったとおり間取りは頭に入っている。この部屋から廊下に出ればすぐに階段がある。
「俺がいく。1階は任せた」
廊下へ飛び出し階段へ。2階はスモークの影響はなかった。明かりもあったので暗視鏡は額に跳ね上げる。
階段を駆け下りてくるやつがいた。コールマンじゃないか。奴が俺に気づきあっと声をあげる前に俺は引き金を引いていた。
さっきの73と同様弾幕に足をすくわれコールマンは前方に転倒した。先ほどより気の毒だったのは階段を降り始めたところだった事だ。
やつは打ち捨てられた人形のように階段を転げ落ち、俺がかわしたもんだから一番下まで落下して動かなくなった。まぁ知らんわ。
階段を上り人影があった部屋の前へ移動した。中の声を聞く。先ほど聞いたコーツの声がする。どこかに電話をしているのだろう。無駄だ、もう遅い。
1階の方はしばらくドタバタが聞こえていたが、すぐに収まった。三郎は仕事では最高の相棒だった。あくまで仕事でだけな。
狭い室内ではMP5より拳銃のほうが取り回しがいい。
俺はMP5をドアの横に置くとグロックを引き抜きノックした。
「だれだ?!」
引きつった声が聞こえた。
「便利屋です」
言うなりドアを開ける。銃弾が通り過ぎていった。ドアを開けただけだ。堂々と入っていくほど馬鹿じゃない。床にへばりつきドアの隅から最低限銃と顔を出してグロックを放つ。机の前にいた中年親父の腕から銃をはじき落とす事など簡単だった。
ゆっくり立ち上がり室内を確認しながら進入した。ジュンは右の奥にうずくまっていた。気が強いとは言ってもただの女の子だ。恐ろしすぎる体験だろう。
俺の視線に気がついたのか、コーツはジュンに取り付いて無理やり立ち上がらせると後ろから首を決めやがった。
「近づくと殺す!」
追い詰められた悪党の台詞である。
「お前に聞いておきたいことがある」
俺は無視して質問した。
「人格改善セミナーを利用して強盗なんてちゃちな犯罪、当選二桁の国会議員が何でそんな下らん真似をした」
当選二桁の国会議員。ヤツのアイデンティティそのものの言葉が奴にプライドと理性を少しだけ呼び覚ました。
「下らん? そうさ、下らんさ。下らん奴らを使って下らん悪戯をしてやっただけさ。しかしその結果何が起きるか」
ちょうどその時市長の街宣カーの声が聞こえてきた。
「鼠算で増える駒を使って自分の手を汚さず街に犯罪を起こし続けることが出来る。町の治安は悪化し当然市長の支持率も悪化する」
なるほどそうか。
「市長再選の妨害が目的だったのか。しかし何故だ。鳥取市長は確かに無所属だがお前さんの真自党と仲が悪いわけじゃない。犯罪犯してまで止める必要はないだろう」
さらにいえばこんな田舎町の市長なんかを…… だ。
それに対しコーツは下卑た笑いを見せた。
「市長を落選させるのが本当の目的ではないし真自党のためでもない。党本部の奴らに見せ付けてやるための事だ」
「?」
作品名:便利屋BIG-GUN 1 ルガーP08 作家名:ろーたす・るとす



