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ろーたす・るとす
ろーたす・るとす
novelistID. 52985
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便利屋BIG-GUN 1 ルガーP08

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 つまり袋のネズミだ。
「小細工しましたね。いい手ではありました」
 奴の声は嬉しげだった。アンタじゃなければ今ので勝てていたな。
 特定の電話番号を着信すると入力されていた動画を再生するアプリを俺は作動させておいたのだ。本来は紛失したときに置き場を探す機能だがこういう使い方もあった。うまくいってれば後で自慢してやれたのにな。
 ドアを閉める間はなかった。奴が接近してくるのがわかる。ベレッタをドアの影から出して闇雲に撃つ。まあ当たるはずも無い。
「往生際が悪いぜ兄ちゃん。そろそろ決めるぜ」
「ああ、そうしようか」
 奴が接近してくる気配がした。動きが重い。出血が堪えているのだろう。だが遠慮していたら殺られる。
 俺は目をつぶり部屋のスイッチを押した。辺りを閃光が覆った。
「うお」
 かなり近くで奴の驚愕の声がした。目が眩んだのだ。
 俺は半身だしベレッタを放った。
 暗闇の中部屋から放たれた光にその姿を浮かび上がらせていた。弾丸がその胸と腹に1発2発と食い込んでいく。後ろに倒れながらも奴は銃をこちらに向け撃った。弾丸は俺の腕を捉えた。しかし俺達の活動服は防弾機能がある。衝撃が走っただけで弾丸は俺の体に食い込むことは無かった。俺は倒れた奴にさらに2発撃ち込んだ。
 奴は動きを止めた。
 ここはコーティングを急速に乾かす部屋だ。ここにこれがあるのは知っていた。
 年2回ここは開放され市民祭りをやっている。その際工場見学も行われ俺も参加した事があった。ここは俺の街で奴はここに来た事は無かった。シャコタンの車で波乗り踏み切りに突っ込む奴がこの街の住人であるはずは無い。
 念のため俺は「震える殺し屋」に近寄った。
 驚いた事に奴はまだ息があった。だが、時間の問題か。
「強いね…… 兄ちゃん」
「地の利だ。アンタ怪我してなきゃ相打ちくらいになってたかな」
 奴は笑っていた。何故笑う。
「やっぱり兄ちゃんとはやりたくなかったね」
「同感だな」
 俺はつい本音をこぼしてしまった。
 奴の手にはまだ銃が握られていた。100年以上前のドイツの自動拳銃。古過ぎる銃だ。だがこいつにはこれでなきゃ駄目なんだろう。俺にはわかる。やつは最後にそれを俺に向けるかと思った。だから俺の銃はまだ奴に向いたままだ。
 しかし奴は何故かそれを手放した。
「何故踏み切りの警報を鳴らした。騒ぎを聞きつけられて人が集まれば不利だったのはあんただぜ?」
 俺はつい聞いてしまった。 そしてやつは笑って答えた。
「電車が突っ込んだら大事故になりますよ?」
 それが最後の言葉だった。
 殺し屋が仕事中に人の心配か。
 勝利の快感は湧かなかった。
 奴の無様な死体。
 俺は自分を見ているようでどうにもやりきれなくなっていた。

ACT.3 ルガーP−08

 ヒガシ・コーツは怒りを隠せなかった。
 コールマンが銃撃戦の末、少女を拉致し事を荒立てたのである。
 しかもわざわざ他人名義で借りているこの別宅に連れてきたのである。
 コーツは二階の自室にコールマンを呼びつけた。すると事もあろうに娘まで連れて部屋に入ってきた。
「君は事態を理解しているのか? 君は今指名手配中だぞ。君と私に繋がりがあると思われたらはなはだ迷惑だ!」
 コールマンはこの言葉に喚いた。
「無いと言うんですか! 私はあなたの指示にしたがって動いただけだ。今だって、あなたの名前が出る前に処置をしようと!」
 反抗したコールマンにコーツはさらに声を高めた。
「今更そんな娘を捕まえてきてなんになる! 君の事はすでに公になっているんだ。私はその子が誰かさえ知らんが」
「ローランドの娘ですよ! あなたが消せと言ったローランドの。こいつはローランドが隠していた我々の悪事の証拠を持っていた! そしてそれを今持っている奴らは王子様気取りでこの子を助けようとしている! 人質として十分餌になる。おびき出してボーチャードが奴らを始末すればあなたの事は明るみに出ない。現に今食いついてきたガキをあいつが始末しているところです!」
「だからと言って何故ここに連れてきたのだ。お前と私の繋がりが知られたら全て終わりだとわからんのか!」
 大人達のののしり合いを傍らで見ながらジュンは恐怖より侮蔑の気持ちを強く感じていた。
 自分を誘拐してきた男は我を忘れていた。追い詰められて正気を失っているとさえ見える。頭のよさそうな人間に見えたが事態に対処できないのだろう。
 館の主の方はテレビで見たことがある。確か大物政治家だ。話の根本はわからないが、この男と組んで悪事を働いていた。父も殺した。その罪を男に押し付けて逃げるつもりのようだ。父もこんな風に切り捨てられたのだろう。
 なんて醜い大人だろう。
 子供を前にして自分の立場だけ守ろうとあがいている。父もそうだったのだろうか。自分は見てはいけない世界を見てしまったのか。BIG−GUNのみんなが言ったようにおとなしく家に帰ればよかったのだ……。
 彼らは確かに自分に嘘をついていた。
 何故、どんな嘘をついていたのかはわからない。 
 だがそれは決して自分に悪意あってのことではなかった。今頃そう思えるようになっていた。
 風見健、彼はセクハラまがいの軽口ばかり叩いていた。しかし決して自分に近づこうとはしなかった。何故? そこに嘘をつかなければならなかった原因があるのだろう。
 彼が女の子を連れている事は無いとみんなが言っていた。あれほど町中の人に愛されていた少年が。
 彼は女の子に好かれないのではないのだ。ただ近づけないだけ。
 彼は、彼らは無事だろうか。
 ベンは自分を守って撃たれた。助かるだろうか。
 あの殺し屋が、父を殺したルガーの殺し屋が自分を餌に彼らを狙っている。誰かを始末しているとあの男は言った。
 恐ろしかった。自分のせいで彼らが傷つくのが。
 助けに来て欲しいという気持ちと来ないで欲しい気持ちが両方ジュンにはあった。
 その時コーツの電話が鳴った。非通知。
「もしもし?」
「ヒガシ・コーツ議員だね?」
 若い声だった。
「君は?」
「よくご存知かと?」
 コーツの血の気が失せた。
「そこに女の子がご厄介になっていると思うけど」
「知らんな」
 内心狼狽してはいたがそこは国会議員だ。表には出さない。
「指一本触れるなよ」
「なんの事かわからんな。大体ここがどこだか君は知らんのだろ?」
「ここだよ、ここ」
 同時に1階から爆音が聞こえた。窓の外から煙が立ち込めている。
「ローランドもここは知らないはず…… と思ってるでしょ? 薬屋のおばさんは知ってたんだな。裏切るはずがない? 還暦過ぎた親父より若い恋人の方が大事だったみたいだよ」
 電話は切れた。コーツは電話を落としてしまった。
 馬鹿な、何故こんな事になる。
 今度の事はちょっとした実験、嫌がらせ、いや悪戯だったはずだ。
 なんでこんなやつらのために私が、私ほどの男か!
「奴らか! ボーチャードは何をやってるんだ! 下の奴らは!」
 コールマンは部屋を飛び出していった。
 ジュンにはわかっていた。
 来た。
 BIG−GUNだ。