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ろーたす・るとす
ろーたす・るとす
novelistID. 52985
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便利屋BIG-GUN 1 ルガーP08

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 悲しげな声だった。泣けばいいのに。誰も笑いはしない。
 それでも泣かないのが、こいつのプライドなのだろう。
 俺は話を切り上げることにした。
「やっぱり銃なんかいらないだろ。さっさと行こうぜ」

 殺人現場は南口西の商店街だ。商店街と言ってもアーケードがあるわけでもなくホコテンになるわけでもない田舎町である。全て2階建ての個人商店で構成された町並みは前時代を感じさせずにはいられない。ジュンは一度来ていると言っていたが、物珍しそうに辺りを眺めている。
「現場はこの辺だ」
 俺は立ち止まった。
「何もないわね」
 たしかに商店街の真ん中であり、目の前は自転車屋と饅頭屋だ。どう考えても拳銃会社とは関係ない。
「殺し屋はどこにいたの」
「もうちょっと先だ。あの辺から飛び出して反対側に駆け込んだらしい」
 俺の指差した方をエメラルドの瞳はじっと見つめたがやはり何の変哲もない商店が並ぶだけだ。
「よく知ってるわね」
 振り返って俺の顔を覗き込む。長い髪がふわりと地面をさした。
「ここは俺の街だぜ」
「警察のお友達も多いしね」
「まぁそんなところだ」
 ジュンはため息を一つついた。
「パパ何しにここに来たのかしら」
「わかってればこないさ」
 至極もっともな事を言ったのにジュンはムッとしてみせた。
「あとさ、言いにくいんだけど」
「なによ」
「ここが現場だからって、お父さんがここに用事あったとは限らないんじゃないか」
 ジュンは今気がついたように「あっ」と言った。
「どこかに行く途中で撃たれただけかも」
 ジュンはむーっと考えた。頭が回るのか回らないのかよくわからん奴だ。まぁお父さんが撃たれてるんだ。冷静さを欠いているのは仕方ないか。
「でもさ…… ここで待ち伏せされたって事はここを通る可能性が高かったってことでしょ? なら近くに目的地があったって考えるべきじゃない」
 まぁそう考える事もできるが…… まさかそれをしらみつぶしに探すつもりじゃないだろうな。そんな事を考えていたとき俺の視界に会いたくない奴の姿が入った。ちっ、向こうも気がつきやがったようだ。近づいてくる。
「やぁ、また会いましたね」
 ジュンもはっと振り返り男の顔を確認すると、やや表情が曇った。
 昨日あった73ヘアーな勧誘男が現れた。
「何かお探しのようですね、我々の集会場をお探しですか?」
「なんでそうなるんだ」
「昨日用があったら来てくれると言っていたじゃないですか」
 自分に都合のいい発言は確実に覚えていて自分に都合のいいように現状を解釈する。こういう輩の共通点だ。
「セミナーとやらの集会場はこの近くにあるのか?」
「ええ、すぐそこです。どうぞ歓迎します」
「なら、離れよう。じゃあな」
 驚いたことに73男はまた食い下がってついてきた。こういうのはストーカーとして撃ち殺したらいかんのだろうか。少なくとも俺の倫理には全く反しないのだが。
「今日も警察に行くのだがついて来るのか」
 警察と言われるとさすがに奴は退散した。警察署は例の開かずの踏切を越えていけば割と近い。
「ねぇ本当に行くの?」
「他に行くとこないしな。話聞くんなら警察に直接聞いたほうがいいだろ。娘なら色々教えてくれるかもしれないぜ」
 ああそうか…… とジュンは納得してついてきた。護衛するにしても警察署なら楽なのは間違いない。
 踏み切りをうまく超え南口から北口に入ると町並みは少し都会っぽくなる。とはいえ木造2階建ての商店街が鉄筋3階建ての町並みに変わる程度だ。しかし人通りは増え、俺の警戒心もやや増していく。踏み切りを渡ってまっすぐ歩きどんつきがこの街のメイン商店街「グリーン商店街」だ。個人商店やチェーン店が並ぶDクマ前に次ぐ賑やかな所である。左折してこの通りを進みゲームセンターを右折すると警察署まではもう少しだ。商店街から外れるためやや人通りは減り左に警察署、右に郵便局が現れる。そのちょっと手前に動物病院がある。その前に立つ男を見つけ俺は足を止めた。
 自然に体が緊張してきていた。
 もう暑いだろうと思われるモッズコートを着た男が病院の中の動物たちを見つめていた。
 俺の視線に気づいてか振り返るとにこやかに微笑んでこちらにやってきた。
 イタリア系だろうか。背は俺より高く歳はずっと上。40くらいか。ブラウンの髪と髭を汚らしく伸ばしている。表情とは裏腹に…… 感じる。この男は危険だ。
 俺は一歩前に出てさりげなくジュンの前に立った。
「怖がらないでくださいよ、お二人さん」
 男は俺の5m手前で立ち止まり片手を挙げた。その手はわずかに震えていた。肩も…… コートなんか着込んでいるくせになぜか震えている。
「あたしゃ動物が好きでね」
 くるりと大げさに背を向ける。大きな背中だ。
「つい見入ってただけなんですよ」
「警察に用事?」
 緊張を表に出さないように問いかけた。
「ええ、まあね」
 男はククッと笑った。どう見ても…… 正常な人間ではない。ジュンも感じ取っているのだろう。俺の後ろから出てこようとはしなかった。
「あなたを知ってますよ。今朝の新聞に出てた」
 確かに乗っていた。駅前の銀行強盗とDクマの一件。Dクマのほうはまだ俺と確定していないから俺の名は乗っていなかったが銀行のほうはデカデカと3面記事に乗っていた。あんまり好意的じゃなかったな。
「すごいですね…… 三人も撃ち殺すなんて」
「二人だよ。銀行前は」
「うふ…… そうでした。あなたと喧嘩はしたくないですね……」
「俺もだよ」
 男はまた俺達のほうを向き、体をかがめてまたククっと笑った。
「何もしませんよ、あなた方には。あなたが私に何もしなければね」
「信用していいかな」
「ええ、少なくとも今は」
 男は警察署の中をちらりと覗き込んだ。こちら側は警察署の裏口に当たりパトカーの発進口や中庭がある。男は何かを見つけたようだ。震えは益々大きくなっている。
「じゃ、失礼。また」
 男は片手を挙げ挨拶すると震える足で中庭に入っていった。
「怖い人」
 ジュンがつぶやいた。感のいい娘だ。あの男、まちがいなく……。その時。
 銃声が響いた。
 悲鳴と怒声が続く。警察署からだ。俺はジュンを屈ませ病院まで引っ張った。ベレッタを引き抜き警察署の中をうかがう。建物に入ってすぐのところには巨乳な受付嬢がいるはずだ。
「病院に入って動くな」
 俺は警察署に向かった。銃声を聞いて大勢の警官が中庭に飛び出していた。誰かが撃たれた様だ。建物に入り受付に向かう。裏口なので受付は建物の反対側にある。
 アリスは受付に座っていて無事だった。だが顔面蒼白で動けなかった。
「大丈夫か」
 ベレッタをしまってから声をかけるとアリスは正面の玄関を指差した。震える声を絞り出す。
「たぶん…… 今のが犯人」
「なに?」
「コートの男が中庭のほうから来て玄関から出てった」
 やつだ。警察署内を堂々と?!
「銃を持ってたわ。古いドイツの銃……」
 警官達はみな中庭の現場に殺到しているようでこの玄関口にはいなかった。とにかく追わなくては。
 受付のアリスの後ろには細い鎖がかかった戸棚がある。