便利屋BIG-GUN 1 ルガーP08
俺はカウンターを飛び越え、その戸棚のノブを掴むと力任せに開いた。鎖は簡単に引きちぎれた。中には数丁のショットガンとアサルトライフルが収まっていた。緊急用の武器である。どの警察署にも同様の物は何箇所かに設置されている。
俺は銃身を短く切り詰められたポンプアクションのショットガンを手に取りスライドを引いた。弾丸は装填されていなかった。横にあった箱から1発玉ライフルスラグ弾を抜き取りエジェクションポートに放り込みスライドを戻す。これで薬室に装てんされ発射準備完了だ。次に散弾タイプのショットシェル00Bを2発つかんで玄関へ走った。
警察署内はすでに非常ベルがなり騒然としていたが玄関側は至って平穏。警察署前は国道が通っているが車は通常通り流れている。何事かと中を覗き込むのんきなおじさんすらいた。俺がショットガン片手に飛び出してきたのを見ておじさん愕いて転倒していた。好奇心は猫を殺すっていうぜ、おじさん。
銃下部から2発のショットシェルを装填しながら慎重に辺りを確認する。
いた。左50mを悠然と歩いていやがった。右手にはまだ銃を握っていた。
俺はショットガンの木製ストックを肩づけし奴に「止まれ」と怒鳴った。
すると奴はくるりと反転しこちらに銃を向けた。
俺は考えるより早く建物側に引っ込んだ。瞬間俺のいた辺りを銃弾が切り裂いていった。わずかに遅れて銃声が轟く。
俺は低く構えて頭を出し奴に撃った。
昨日の強盗が使っていたショットガンとは物が違う。切り詰めたといっても2倍近い銃身があり弾丸も散弾ではなく1発玉のライフルスラグ弾だ。このくらいの距離なら十分射程内だ。
だが奴も俺同様俺が構えた瞬間に建物の影に飛び込みやがった。昨日の連中とは違う。技術も経験もはるかに上の強敵だ。
ショットガンのスライドを引き排きょう、戻して装填。今度は散弾だ。距離があるから殺すことは出来ないが怪我くらいはさせて足を止めることくらいはできよう。
俺は射撃のタイミングを計った。
その時、俺のセンサーに何かが引っかかった。見えたわけではない。勘としか言いようがない。
俺は右に90度体を回転させた。視界にワンボックスカーが猛スピードで迫ってくるのが見えた。助手席の窓が開いていて俺に向けて銃を構えているのが見えた。
とっさに引き金を引く。ドンというショットガンならではの反動と轟音が体を震わせる。
ひゅんと耳元を何かが通った。奴の撃った銃弾だろう。
俺の放った散弾は助手席の窓に命中していた。
散弾はそこまで狙いを定めなくても広範囲に散って命中率を高めてくれる。窓ガラスは粉々に砕け車はそのまま走り抜けたため中の奴がどうなったかは確認できなかったがただではすまなかっただろう。何しろ散弾とはいえ00Bは9発しこまれた弾丸の1発ずつが中型拳銃並みの威力を持ち全部合わせれば最強クラスの拳銃弾として有名な44マグナムの2倍のエネルギーを誇る。それを歩道を挟んで5mも無い距離で撃ち込まれればどうなるか。言うまでも無いだろう。
再度スライドを引き次弾を装填、狙おうとしたがコートの男が撃ってきたので顔を出せなかった。射撃が途絶えたとき意を決して飛び出したが遅かった。
車は奴の横に止まり、奴は乗り込んだところだった。俺は最後の散弾を撃ったが車のリアガラスを粉砕するだけにとどまった。
俺は舌打ちして警察署に戻り現状を確認した。
撃たれたのは昨日俺が捕まえた銀行強盗だった。留置所から取調室まで移動しているところを中庭から狙撃された。警察署の建物は受付や署長室がある本館と交通課などがある別館があり渡り廊下でそれをつないでいる。要するにコの字をしていて別館の留置所から本館に廊下を渡っている最中に撃たれたわけだ。
犯人、間違いなくさっきの男は中庭の端から廊下の男を撃ち、そのまま大胆に本館に入って玄関から出て行ったのである。
警察は白昼堂々容疑者を署内で撃ち殺され犯人も取り逃がしたことになる。前代未聞の不祥事といえよう。シェリフの心中察するに余りある。俺はとても別件の質問なんてできなくて帰宅した。ジュンもさすがに同じ思いだったようだ。
モッズコートの男。おそらくは凄腕の殺し屋だろう。動物好きで何故か震えていた。
震える殺し屋…… か。
プジョーをぶっとばして帰宅すると駐車場に見覚えのない男が立っていた。肌はやや浅黒く長身。大きな目は白目の綺麗さが印象的だった。歳は俺より少し上だろうか。プジョーの小さな青い車体を見つけるとにこやかに微笑んできた。それなりにハンサムといえる顔立ちだが…… はて誰だろう。丸腰に見えるが一応警戒し車を降りた。
「ややあ、風見ちゃん」
話しかけてきた声としゃべり方ですぐにわかった。
「ベンか?!」
「そそそそうだよ」
「あなた友達の顔もわからないの?」
背後からジュンが非難した。しかしだな。
「割と長い付き合いだが昨日の格好しか見たことないもん。ぶっちゃけ顔見たの初めて」
「どういう付き合いなのよ」
どういうったってこういう奴なんだから少し変わった付き合い方になったって俺のせいじゃねーだろ。
「けけけ決心して風呂に入ったよ」
「そうか! 偉いぞ。しかしその服似合わないな」
似合わないというかサイズがだぶだぶなのだ。ちゃんと洗濯されているところを見ると盗品やゴミの類ではなさそうだが。
「じじじジムに借りたから」
なるほど。本来なら三郎のを借りればよさそうだがまた留守なのだそうだ。勝手に部屋に入ったらセキュリティシステムでマシンガンでも仕掛けてあるかもしれん。
「ちょっと小さいかもしれんけど俺の仕事着貸してやるよ。それよりはましだろう。それにちょうどよかった。力が借りたかったんだ。来てくれ」
ベンは笑顔で俺についてきてくれた。背後でジュンが「ベン割と男前なんだねー」と声をかけるとテレまくってちょっと逃げ出してはいたが。
警察署襲撃事件はすでにテレビで中継されていた。そしてそれより詳細な情報がラーメン屋から出前されてもいる。みんな仕事速いな。
発射された弾丸は一発。発射地点から被害者までは30mもある。弾丸は額に撃ち込まれ即死だったらしい。達人の域だろう。俺にできるかどうか。白昼の死角というか、誰も発砲の瞬間を見ていなかったそうだ。署に入ってすぐバンっだったからな。あの男、何かを見て中に入っていった。あの位置からターゲットが渡り廊下に出てきたのは見えない。誰かが先に署内にいて合図したに違いない。殺されたのが銀行強盗の生き残りであることからして組織的な犯行。組織を隠すための口封じということか。
俺はあいつの高笑いをふと思い出していた。
殺し合いしただけの間柄だったが何か人として繋がるものを感じた。何故か怒りを感じていた。
「えー、こっちの方が似合うよー」
「そそそうかな」
って…… おい。
「人がシリアスに事件の検証してる横でイチャイチャとコーディネートするな!」
ここは俺の部屋で、勝手に俺の服引っ張り出しジュンがベンを着せ替えて遊んでいるのだ。
「ごごごごめん」
「だってーみんな仕事服じゃつまんないじゃん」
ベンは素直に謝りジュンは思いっきり唇をひん曲げた。
作品名:便利屋BIG-GUN 1 ルガーP08 作家名:ろーたす・るとす



