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交響楽(シンフォニー)

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2.天使の誕生



真面目で通っていた久美子が智也の子どもを妊娠しているという事実は、学校側に口止めしていたにも関わらず、あっという間に広がった。確かに非難の的にはなったが、それにも屈せず毅然としていた久美子と、彼女を労わり続ける智也の姿に、エールを送る者も現れた。

おかげで久美子は残り少なかった高校生活を無事に終え、卒業してすぐ、第一子となる子を産んだ。

しかし、生まれてきたのは女の子だった。智也は初めてわが子と対面してその愛くるしさに感動するとともに、少なからず落胆したと言う。久美子は『もう一度お兄ちゃんを産みたい。』と言っていた。彼女は男の子ではなかったことにショックを受けているのではないか。そう思いながら智也は久美子の病室を訪ねた。

「ねぇねぇ、智也見た?!かわいいでしょ。ちっちゃいでしょ。」
「あ、ああ…」
病室に入ってくるのを見るなり興奮気味でそう言った久美子に、智也は歯切れ悪く返事した。
「何よ、感動薄いなぁ。普通は男親の方が、『娘は絶対に嫁にはやらん!』なんて生まれてすぐから言うって聞くのに。」
「ははは、そりゃドラマの中でだろ。」
そう言うと、智也はベッドサイドの椅子に座って久美子に目線を合わせて、
「久美子…ゴメンな。」
と言った。しかし、いきなり謝られた久美子の方は何を謝罪されたのか解からずきょとんとしていた。
「何?」
「その…男の子じゃ…なかった。お兄さんをもう一度産みたいって言ってたのにな、お前。」
「ああ、その事?」
「ゴメンな。」
もう一度謝った智也に久美子は笑顔でこう返した。
「謝らなくても良いよ。私、生まれる前から先生に女の子だって聞いて知ってたから。ホントはね、聞いたときはちょっとショックだったんだ。だからお姉ちゃんに泣きついちゃった。」
「えっ、さくらさんには話したの?」
智也は、久美子が既に生まれてくる子の性別を聞いていたということにも、そのことでさくらに泣きついていたことにも驚いた。
「うん、そしたら言われた。『良かった、その子は高広じゃないもの。高広は高広だし、その子はその子だよ。』って。すごくはっとした。私たちはそれでよくても、その子にとっては、お兄ちゃんを押しつけるってことなんだって。」
「…」
「そんな顔しないでよ。あの子見たでしょ?かわいくてちっちゃくて、天使。それ以外には言えないわ。私はあの子のママになれて幸せ。」
(ホント、久美子って強いよ…)智也は既に母の顔になっている久美子の顔をじっと見つめた。