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交響楽(シンフォニー)

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子どもは初羽(ういは)と名づけられ、坪内家の空気を一気に明るくした。
そして、その存在は智也の両親の心すら動かした。

「親父、久美子んちに時々行ってるってホントか。」
「ええ、本当に初羽ちゃんってかわいいわねぇ。いくら見ても飽きないわ。」
憮然とした表情で言う智也に、父親ではなく母親が答えた。智也はそれを聞いて激怒した。彼は、
「マジかよ…久美子にあんなこと言ったくせに、今更どの面提げて顔出せるんだよ。信じらんねぇ!俺の娘に触んな。」
と、両親に向かって文句を吐きだした。そう言われた当の母親は、申し訳なさそうな顔で伏せ目がちに、
「ホントに悪かったと思ってるわよ。」
と返した。
「謝りゃ済むって問題じゃないだろっ!」
「だけどね、男の子のあんたたちと違って、初羽ちゃんって泣き方までかわいいんだもの。久美子さんも『どんどん見に来てください』って言ってくれてるし。」
そしてそう言うと、母親はトロトロのババ馬鹿の顔になった。その顔を見て、智也は小さくため息をついた。まさに、『案ずるより産むが易し』とはこの事かと思ったのだ。

「でな、久美子さんの体もそろそろ落ち着くころだし、結婚式をやるのはどうかなと思って…坪内さんにそう、話してみてくれないか。」
「は?!」
続いて父親の口から出てきた言葉に、智也はあからさまに不快だという態度で聞き返した。
「自分たちが放棄させたんだぞ、久美子の事!虫が良いにも程があるとは思わないのかよ。俺さ、この際だから大学卒業して、仕事決めてそれから久美子迎えに行くから。」
「智也…」
孫を見てころっと『宗旨替え』してしまった両親に智也はつっけんどんにそう答えると、自室に入って行った。

「なぁ、どう思う。全く馬鹿にしてると思わないか。」
「そんなことないよ。お義母さんは智也の事、ホントに愛してるんだって。」
それを、憤懣やるかたないという様子で久美子に告げると、彼女は大笑いしながらそう返した。
「誰だって、自分の血を分けた子はかわいいのよ。智也だってそうでしょ?だから、今怒ってる。」
「そりゃ、そうだけど…」
それはそうなんだけど、あんなにころっと180度態度を変えられると、あれは何だったのだと毒づきたくもなるだろ?そう思いながら智也が久美子を見ると、久美子は初羽を優しくとんとんとリズムを付けながら眠りに導きながらこう言った。
「それが、初羽…赤ちゃんのパワーなんだってば。それに、それって智也がここまで頑張ってきた証拠だよ。今、智也パパの顔してるもん。」
「お前、上から目線で言うな。」
そう言うお前の方が、すっかり母親じゃないか…智也はそう思いながらそう言葉を返した。
確かに…両親があの時、自分の将来を心から案じてくれていたのだということは解かっている。だけど、それだからこそ自分が愛する女性も大切にしてほしい。そう思うのは、わがままなのだろうか。

後日、智也の両親は正式に以前の非礼を謝罪し、智也と久美子は晴れて夫婦となった。それと同時に智也はそれまでのバイト先を辞め、久美子の父の経営する会社にアルバイトとして入った。
「お義兄さんがいたら、俺なんかが手伝わなくて良かったんだろうけど。」
慣れない仕事で些細なミスをして落ち込んでそう言う智也に、
「高広?あいつは建築デザイナーになるとか言って、はなから家業を継ぐ気なんてなかったよ。ウチの手伝いをしたことは一回もなかった。」
と、久美子の父が笑顔でそう返した。
「そうなんですか…」
「だから、私は内心久美子でかしたと思ってるんだがね。ウチみたいな小さな会社には来てもらえない逸材が自分から飛び込んできてくれたってね。誰だって初めから上手くいく奴はいないよ。」
彼はそう言うと智也の肩をポンポンと叩いた。

そして、初羽誕生から2年後、久美子に第二子、私の最強のライバル?純輝(じゅんき)が誕生した。