あなたとロマンス2
彼女がゆっくり立ち上がり窓に近づいて来た。
まずかったかな・・・。
「何か御用ですか?」はっきりとした口調で、馬鹿のように突っ立ってる僕に聞いてきた。
「あっ、いえ・・、いい曲だったものですから・・つい、聞いていました」
何を素直になっているんだ‥。
「ショパンはお好きなんですか?」
「あっ、はい、いえ・・・よくわかりませんが・・・」
彼女はくすりと口元に手を当てて笑った。
「お仕事中なんですか?」
「はい、まぁ・・いえ・・」
何をしどろもどろになっているんだ・・・。
「今日はいい風ですね。涼しくて気持ちいいわ」
「そうですね。あの~・・・続けてお弾きになっても結構ですよ。僕、もう行きますから」
「聞いていかれません?」
「はっ?」
「お聞きになりたいのでしょ。あら、あつかましいかしら」
「あっ、いえ、まさか・・いや、いいです。ありがとうございました」
何がありがとうなんだろうか僕は。心臓が高鳴っていた。ただの庭越しの会話なのに。
覗き見をしたような事態に卑屈になっていたんだろうか。
いや。違う。窓際から声をかけた彼女が息を呑むように眩しかったからだ。
映画にでも出てきそうなふるまいでピアノを弾く彼女に正直見とれてしまっていた。
心を持って行かれるってこういうことなんだろう。
単純に惹かれていたのだ。
そんな彼女にいきなり声をかけられ、お聞きになりませんかと夢のような事をいきなり言われて舞い上がってしまったのだ。
中学生が初恋の手紙を好きな相手に渡した時のように、僕は年甲斐もなく、いきなり背中を見せて早足でその場を立ち去った。