あなたとロマンス2
「9月のショパン」
出会いは風がピアノの音を運んできた。
街路樹の木漏れ日が揺れる石畳の坂を歩いていると9月の爽やかな風に乗って、どこからかピアノの音が聞こえてきた。これはショパンだろうか・・詳しくはないがテレビのドラマで聞いたことがある旋律だ。
音がする方に顔を向けると、洋風のレンガ作りでパンフレットそのまんまの華奢な住宅があった。
白枠の開き窓に薄いカーテンが揺れ、風にめくれると白い布地の向こうに時折ピアノを弾く女性が見える。長い髪の女性は細長い腕をしならせスローモーションのように、白と黒の鍵盤の上を撫でているように見えた。それは叩くという感じではなく踊っているような仕草だった。
僕は立ち止まり、しばらくショパンの彼女を映画でも見るかのように眺めた。
こんなに演奏家というのが綺麗に見えるのは初めてだった。
この曲と彼女の醸し出す雰囲気が息をのむほどマッチしてたからだろう。
少し涼しい風と、彼女の優しい指から創りだされる音が僕の頬をなでてゆく。
僕は目を閉じた。心地よく僕をくすぐる音と風に夢心地となった。
その時だった、まるで映像のフィルムが途切れるようにピアノの音と風は、何の前ぶれもなくパタリと止まった。どうしたんだろ・・・
僕は目を開けると窓の向こうの彼女はこちらを向いていた。一瞬の事だが目と目が合い、心の中まで見透かされてるような気がして思わずハッとした。
覗き見をしてるような所を見られたようで僕は頬のあたりが熱くなる。しかし、僕は彼女の視線から逃げ出せず、そのままその場に立ち尽くした。