あなたとロマンス2
そして不思議なことに楽しい話ばかりが続く。
「今夜はどうするの?」
「彼はいるの?」
聞きたいけど野暮なことは言わない。
別れた男と女が二人懐かしい時間を送れるなんて、そうあることじゃない。
お酒の強い彼女にカクテルを作り、僕もグラスを傾ける。
話は尽きないのか、このまま一緒にいたいのか・・・。
僕達は午前4時近くまで二人でカウンターを挟み飲んだ。
ようやく「帰らなくちゃ」と彼女が言った。
「ああ そうだね。。。明日は休み?」
「うん ゆっくり・・」
「どこまで帰るの?」僕は聞いた
「べつに・・・」
その「べつに」はどういう意味なんだろ・・・。
しんとした間をおいて僕は「一緒に帰ろうか?」と聞いた。
何も言わない彼女をさしおいて僕は帰り仕度をした。
店の外は小降りの雨だった。
「どうしようか?」僕が聞くと、彼女は「車とって来る」と近くの駐車場へ行った。
そのまま僕は彼女の車の助手席に乗り、行く先も言わず運転する彼女に身をまかせた。
いくつかの交差点を過ぎたところで
「あっ そこの信号右に曲がったらホテルがある。。」と
僕は言った
「やだ~ そんな気じゃない」と笑って彼女は切り返す。
「じゃ、君にまかせる。ほら、もうすぐ信号変わるよ。決めて」
僕は小さな笑いをしながら彼女を見守った。
信号が青に変わり、彼女はウインカーを付けて右に曲がった。
それから二人無言で走った。
いくつかめの信号の左側にラブホテルがあった。
「そこに入ろう」と僕は言った
彼女は抵抗するわけでもなく、ラブホテルのビニールの仕切りをくぐり車を車庫に入れた。
車のエンジンを止め、二人笑いながらキスをした。
ずいぶん忘れていた久しぶりの彼女の唇だった。
そして僕達は昼過ぎまで、そのラブホテルに泊まった。
あの時のラブホテルが今、取り壊し工事の真っ最中だ。
なんだかあのベッドも部屋も、
あの時の彼女も消えて行くようだ。
古くなったものは、いずれ新しいものに変わる。
でも古くなったものを懐かしみ、心がきゅんと染みる時がある。
あの日以来、あの彼女とは会わないけど
きっと彼女も懐かしさに、あの晩は心がキュンとなってしまったんだろ。
信号が青に変わり、夏空のように青い空を正面に見据え
僕はアクセルを踏んだ。
古い物はなくなり、新しく時代は変わる。
ラブホテルの半壊姿に、ひとつ昔話を思いだした。
(完)