あなたとロマンス2
圭介のライブは後半を迎えていた。
トークはあまりうまくない圭介だが優しい口調には好感があった。
「今日はありがとうございます。とうとう俺も50になります。半世紀、生きて来て、そろそろ一つの区切りが必要じゃないかとこの頃考えています。今日の夕方 すごく夕日がきれいで思わず泣いてしまいました」
客席から「ヒュ~~」と掛け声が飛んだ。
「30年間歌い続け、俺に残ってるものは歌とギターだけです。皆さんのようにお金はしこたま貯めてません」客席から笑いが起きる。
「ふと、歌とギター以外何が俺にとって大事なんだろうと考えてみました」
沈黙。。
「俺には当たり前の存在になってしまっていた。。。彼女を忘れていました」
「キャ~」女性の観客から歓声がわく
「エリ。。。こっちに来てくれないか?」圭介は客席の方を見ると手招きした。
「なっ。。なんなの?」エリは突然のことに驚いた。
客席からは拍手と「ヒュ~ ヒュ~」と嬌声が聞こえる。
「エリ。。。こっちだ ステージに上がってきてくれ」
圭介はマイクを通して言った。拍手が盛り上がる。
エリはスタッフに促され、狭い客席を縫ってステージに上がった。
「ちょっと圭介 いきなりなんなのよ?」
「みなさん 俺の女 エリです。。。」拍手と嬌声のボルテージが上がる。
「じつはエリに結婚してくれと言われました・・・去年」客席から笑いが起こる。
「遅くなったけど 今日ちゃんと返事しようと思って・・・。
エリ・・・あれから1年も経ったけどまだ気は変わってないか?
俺からも頼む、結婚してくれないか?」
「いきなりなんなのよ。ビックリだよ・・・」
圭介は笑いながら立ち上がりエリの傍に来た。
「エリ・・これから俺はお前と一緒に暮らしたいんだ」
「そんなこと聞いてないよ・・・」エリは半べそになってきた。
「お前と一緒にいたいんだ」圭介はエリを抱きあげた。
「けいすけ~~~」エリは泣けてきた。
「圭介、あんただけカッコよすぎ・・・あたし化粧もしてないし・・・え~~ん」
客席から歓声と拍手が大きくなった。圭介は客席に手を振ると
「聞いてください。俺のプロポーズソングです」ピアノが鳴りだした。
♪泣かし~た事もある 冷たくしてもなお 寄り添う気持があればいいのさ
俺にしてみりゃこれが最後のレディー エリーmy love so sweet ♪
圭介は歌の間奏の合間にエリに「君の歌だよ」と言った。
「けいすけ~・・・え~ん・・・しんじらんな~い・・・え~ん・・・」
エリはステージの上で号泣した。
客席ではみんなが歌っていた。
横浜のライブバーの地下はあたたかい温もりが溢れ、みんなが幸せな気分になった。
(完)