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剣(つるぎ)の名を持つ男 -拝み屋 葵【外伝】-

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 *  *  *

 佐佑は、再び将軍の前に立っていた。
 デスクを挟んで向かい合う軍服の男は、何度目とも知れないため息を吐き続けている。
「謹慎を命じたばかりなのに、どうしてこうも問題を起こすのだ」
「迅速、且つ、確実に解決するため、最良の方法を選択したと自負しております」
「それしか言えんのか」
「こちらの都合に合わせてもらえるのならば、生涯休暇を頂きたいところですが」
「もういい、黙れ」
 軍服の男は、今日だけで幾つも老け込んでいた。
「申し訳ありません」
 佐佑のこの言葉には、微塵足りとも謝罪の意が込められていない。ただその言葉通りに、申し開きする言い訳のような言葉はありません、という意味だ。
「それで、相手はキミを指名してきたのだな?」
「はい。“決闘跡地”と言っていましたから、ミラビリスの仇討ちであると思われます」
「奴らにもそんな考えがあるとはな」
「彼らなりのコミュニティーが存在するのでしょう」
「よし、最後の仕事だ。終わり次第ロンドンを離れろ。LAでもマカオでも、好きなところに行かせてやる」
「了解しました。たっぷり指名料をふんだくってやります」
 佐佑は形ばかりの敬礼をとってみせる。
 数秒の沈黙と数度の躊躇いの後、軍服の男は意を決して口を開いた。
「娘のことなのだが……」
「お嬢様がどうかされましたか?」
「急にまとまった休暇が欲しいと言い出してな。ほら、キミは娘と仲が良いだろう? 何か知らないかね? 例えば、そう……」
 軍服の男は、そこまで言って声を詰まらせる。
「つまり、男関係ですか」
 佐佑は構わず、ど真ん中に直球を投げた。
「そんなところだ」
 軍服の男は咳払いをして立ち上がり、目を逸らす。
「お嬢様は大変お美しく、更にはとても聡明な方です。二十八という妙齢ですから、紳士としては放っておけないのでしょう。ご期待に添える自信はありませんが、それとなく訊ねてみます」
「うむ。そういえば、キミは娘と同じ年齢だったな。日本で待っている女性はいないのかね?」
「待っているのは首だけです。では、これで失礼します」

 *  *  *

 CMU(Counter Monster Unit) 対人外特殊工作員。読んで字の如く、人ではない“何か”に対抗するために結成された部隊であり、ここ英国で佐佑が所属している軍部の秘密部隊となる。秘密なのは一般人に対してであり、人外という共通の敵を持つために、各国当該組織間の連携は意外なほどに進んでいる。ただし、それが災いして例外なくスパイ容疑を掛けられることになる。
 人外とは、妖怪や悪魔といった人知を超えた存在、人類に害をなす恐れのある存在、いわゆるUMA(Unidentified Mysterious Animal)だ。
 英国を根城にしていた悪魔が、何を思ってか日本へとやってきた。日本の妖怪たちは、外敵を追い返すべく団結して戦いを始めた。しかし、すべての妖怪が集結したわけでもなかった。
 仮にすべての妖怪が力を合わせていたならば、如何に強大な悪魔であろうとも、あっという間に撃退されていたはずなのである。
 日本の退魔師たちが、同士討ちによる消耗を期待していたため、大物の妖怪は様子見をしていたのだ。
 その結果、時間は掛かったが追い返すことには成功し、日本の退魔師たちは計画通りに漁夫の利を得て、一人勝ちを収めた。悪魔であろうが妖怪であろうが、退魔師にとってすれば同く人間に害を成す存在なのだ。
 しかし、退魔業において先進国であると自負している日本は、一匹の外来種も仕留められない、と揶揄されることを嫌い、追撃を決定する。
 しかし、国内の勢力を一掃する好機でもあったため、最低限の人員しか割くことができず、日本屈指の冠である“草薙”を戴く佐佑に白羽の矢を立てた。
 佐佑自身に渡英経験があり、英語にも堪能であったことが、決定の大きな後押しとなった。
 しかし、佐佑の派遣が単純な体面と時間稼ぎでしかないことは、誰の目から見ても明らかであり、本人も自認していた。
 英国側は、両国の技術交流を図る足掛かりとするために、当該機関であるCMUの一員となることを条件に、受け入れを承諾する。
 そうしてその半年後、佐佑は見事に日本へとやってきた悪魔ミラビリスを調伏することに成功した。
 これは両国共に想像し得なかった成果であったのだが、日本の上層部を保身に走らせる結果となり、それは佐佑の腕を惜しみ、その技術を吸収しようとする英国側の意図と相まって、目的を達した後も駐留を余儀なくされるという状況を生み出してしまった。